従業員のうつ病発症についての使用者の予見可能性はどこまで認められるか
2012年 08月 23日
【要旨】
会社が、C型肝炎に罹患して長期治療を継続していた従業員の衛生管理情報の引継ぎを怠ったため、転勤後の職場の上司において、当該従業員の転勤直後の入院治療を非難したり長期のインターフェロン治療を要することにつき退職を示唆したりした言動が、インターフェロンの副作用等とともに当該従業員のうつ病発症の要因となったとして、会社の安全配慮義務違反が認められたが、右安全配慮義務違反とうつ病発症から約2年3か月後の自殺との相当因果関係は否定された事例。(大阪地判平成22年2月15日/日本通運(うつ病自殺)事件/判時2097号98頁/判タ1331号187頁)
(衣笠葉子「従業員のうつ病発症についての使用者の安全配慮義務」民商146巻2号85頁より)
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2012年、今年の戦争関連番組を振り返って
2012年 08月 22日
改めて、そう実感する番組だった。
「dear hiroshima~ワンピースの写真が北米市民に投げかけた波紋~」
( http://www.nhk.or.jp/war-peace )
広島で被爆し亡くなった少女らの遺品を撮影した写真展が、カナダ・バンクーバーで開かれた。
てっきり、原爆問題に関心のある方ばかりが関心があるのかと思いきや、実に多様な背景を持った人々が集ったのだった。
先住民として原爆開発の犠牲になった人、祖国の内戦に想いを馳せた人、広島が出身の日本人女性と結婚した人―。
白い空間の中に静かに飾られた写真は、ただ、眺めているだけで人の心の奥深くに眠っている“静謐な感情”を呼び覚ましてくる。
雄弁でもなく、圧倒的な威圧でもなく、峻厳さでもない。
ただ、そこに飾られたワンピースの遺品の写真が、それを着ていた少女に降りかかった悲劇の痛ましさに、黙って心を寄せたくなる、そんな想いに捉われてしまう。
戦後67年と報道される。
だが、それは“日本”の場合に限っていえることである。
なぜなら、海外に出たら67年も戦争をせずにきた国の方が稀だからである。
写真展が開かれたバンクーバーのあるカナダもここ数年、アフガニスタンで多くの犠牲を払ってきた。
そして、67年はただ単に幸運に恵まれた、というだけではなく、痛ましい悲劇の記憶をどう次の世代に引き継いでいくのか、という極めて困難な問題を突きつける。
ETV特集「沖縄戦 心の傷~戦後67年 初の大規模調査~」
http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2012/0812.html
は、このことを考えるうえで、重い一撃を見る者に与える作品だった。
これほど、苛烈な記憶を刷り込まれた者が、自身の戦争体験を語るということが、いかに激痛を強いるものか。これほどの痛みを伴うものなのか。
戦争の記憶を引き継ぐ重要性はわかりつつも、自分の体験について口が重くなる、というのはよく聞く話であるが、その記憶の苛烈さに重いを馳せるとき、勇気をもって口を開いた体験者の語りがいかに尊いものであるか、改めて学ばされる。
小熊英二が「民主と愛国」で活写したように、戦争体験はその後の日本の戦後思想に決定的な影響を与えている。
戦争体験を学ぶということは、決して過去の記憶を保存するということだけではない。
今の時代の流れに向かい合うということでもある。
今年も、竹島・尖閣諸島・靖国神社で低劣な愛国パフォーマンスがまたも繰り広げられた。
そんな時だからこそ、「静かに考える-Thinking Quietly-」。
を忘れずにいたいと思うのである。
竹島問題・日本政府「固有の領土」論の自己欺瞞
2012年 08月 13日
三月廿九日 [十年]
日本海内 竹島外一島を版図外と定む
内務省伺
竹島所轄の儀に付 島根県より別紙伺出取調候処 該島の儀は元禄五年朝鮮人入島以来 別紙書類に摘採する如く 元禄九年正月 第一号旧政府評議の旨意に依り 二号訳官ヘ達書 三号該国来柬 四号本邦回答及ひ口上書等の如く則元禄十二年に至り夫々往復相済 本邦関係無之相聞候へとも版図の取捨は重大の事件に付 別紙書類相添 為念此段相伺候也
三月十七日 内務
(朱書)伺の趣 竹島外一島の儀 本邦関係無之儀と可相心得事
三月二十九日
(明治10年/1877年・太政官 竹島外一島版図外指令)
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「市場の論理」不在の会社法改正がもたらすもの
2012年 08月 04日
会社法改正は、日本のコーポレートガバナンスのシステムが迷走してきた歴史でもある。
あるときは資本金の制度が強化されたと思ったら、最低資本金すら撤廃され、監査役の機能が強化されたと思ったら、それすら不要になる“自由な”組織設計が可能になったりした。
そして、迷走は今回も繰り返された。
今回の改正に至る、政府・民主党の動向と企業側の意見を取りまとめている日本経団連の動きについて、一言ずつ書き記しておきたい。
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