NHKドラマ「ハゲタカ」補論(5)「ドラマで語られなかったこと」

※2月に放送されたNHKドラマ「ハゲタカ」の再放送に合わせて再編集しました。

 ここでは、第5回までの放送で語られていないこと、描かれていないことを中心に話してみたい。
 ドラマでは、ハイパークリエーションの西野が、大空電機を巡る買収合戦にホワイト・ナイトとして現れ、ホライズンの鷲津との戦いで勝利まであと一歩に迫りながら、東京地検特捜部にインサイダー取引で潰されていく経緯が描かれている。
 ドラマをご覧になった方のほとんどは、ライブドア事件と二重写しになったであろうが、いずれの事件も、インサイダー取引の「首謀者」が逮捕されただけで、その周辺に群がった魑魅魍魎が一網打尽にされたわけではないことは、共通している。




 思い出せば2年前の2005年4月、新たに東京地検特捜部長に就任した大鶴基成の記者会見は異様だった。
 
「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反すればもうかると分かっていても法律を遵守している企業の人たちが、憤慨するような事案を万難を排しても摘発したい」


 この会見は、法曹関係者には今や語り草となっている、ライブドア、村上ファンド事件摘発の「伏線」となっている。
 捜査に入る前から、事件、そして摘発する者を見定めているかのような発言は、その後様々な憶測を呼ぶことになった。
 しかし、大鶴が決意したように、特捜部は「憤慨する事案」を摘発できなかった。その強引な捜査手法が法律家の多くから批判を浴び、また、世間には単に「出る杭が打たれた」以上の印象を残すことはなかったのである。

 もう一つ。
 ドラマでは、ホライズン・ファンドの「経営危機に瀕した企業を安く買い叩いて、高く売り飛ばす」側面ばかりが協調され、企業を再生させる側面はさわり程度しか取り上げられていない。
 しかし、現実には、まさにその「再生」させる側面こそ、企業買収ファンドの「実績」として評価される部分である。
 企業買収ファンドは、株の買い集めから売り抜けまで、法律ギリギリの手法を駆使し、とかく世間の注目を集める存在である。そこで、単なる「サヤ抜き」ではないという、社会的意義を強調し、出資者を集め、納得させなければならない。
 欧米の企業買収ファンドも、企業の「買収」と「売却」の差益より、買収した企業の「運用履歴(再建過程)」が非常に重視されている。もし、ファンドの運用成績が悪くても、買収した企業の価値さえ高めることが出来れば、出資者への説明責任を尽くすことができる。「買収企業の再生」とは、単に運用成績というカネの部分だけではない、ファンドの信用・根幹に関わるものなのである。

 この点、村上ファンドが摘発される前、阪神ホールディングスや新日本無線など、サヤ抜き中心だった従来の運用手法をひるがえして、「無理筋」と思われるような企業買収に血道をあげるようになったことは、こうしたファンド評価の側面と無関係ではない。
 東京スタイル事件で一躍世間にその名を轟かせていた村上ファンドは、実は、知名度のわりには企業を「再生」させた実績がほとんどなかった。日本経済が回復軌道に乗り、買収可能で値ごろな「企業」が減ってきた中で、実績を作ろうとした村上に、相当な「焦り」があったことは容易に想像がつく。
 また、村上ファンド摘発された事案も、従来、法的にグレーゾーンとして取り扱われていた部分だ。今後、いかなる判決が下されようと、法的な議論の余地は大いに残るだろう。

 ライブドア、村上ファンドが市場から退場した後も、サーベラス、スティールパートナーズといった企業買収ファンドがしぶとく生き残り、新たなTOBを仕掛けている。
 そうしたファンドをどのように評価するべきか。日本社会は未だに「定見」を持ち合わせていない。
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by foresight1974 | 2007-08-24 21:18 | 書評・鑑賞

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