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村上ファンド強制捜査・特捜検察は本当に「勝利」したのか?

唖然とした一日であった。
通常、検察捜査において任意の事情聴取は朝から行われる。また、逮捕も早朝に行われる場合が多い。
記者会見など開いてのうのうと「弁明」する時間は、ほとんどの被疑者にはない。
検事調書へのサインまで済ませた男が、昼間に東証に姿を現し、記者会見で熱弁を振るっている姿は、司法実務の常識からすれば、異様そのものである。



6月の検察人事異動を前に村上ファンドに切り込んだ特捜検察。
しかし、瑣末な事実をあげつらって、村上をインサイダー疑惑の立件だけに止めるならば、やはりそれは検察の敗北と言って良いだろう。

ときどき、それはもう得意げに堀江とのやり取りを語り尽くす村上の記者会見。
医師である妻は、「人格が歪んでいる。発達障害なんじゃないかな?」とつぶやいた。
医師としての所見はともかくとして、私は、彼がいったい「誰に向かって」メッセージを発しているのだろうか。そんな疑問を持ちながら眺めていた。
ある種の「プロのファンドマネージャ」としてのプライドや自己顕示欲があるにせよ、特捜検察がむざむざ許した「寛大な弁明の機会」はいったい何を意味するのか?

NHKではぼかして伝えられていたが、村上ファンドの出資者には、実は農林中金などの「お堅い」金融機関が続々と名を連ねている。
オリックス会長の宮内をはじめ、こうした「政治権力に近いエスタブリッシュメント」の裏書なしに、西武鉄道や阪神電鉄などの政治性の強く、闇組織の存在が取り沙汰される銘柄に村上ファンドが食い込むことが出来なかったはずである。

今にしてみれば、権力のエスタブリッシュメント達が村上を「見切り」はじめたのは、大阪証券取引所を巡る攻防だったのではないか。
日銀出身の米田道生を総会でつるし上げる無様な姿を、テレビカメラの前に晒したとき、個人的には、彼は越えてはならない一線を越えてしまったような気がしていた。
今日発売された「サンデー毎日」には、村上ファンドの最高幹部の少なくとも一名が、検察の事情聴取に「完落ち」したらしいことが明らかにされている。
おそらく、その人物は村上ファンドの「暴走」を一早く見抜き、まさに村上を権力者達に売ったのであろう。

そして、村上も観念した。
正直に言って、彼がいわゆる「株主価値」を語るインタビューを見るとき、彼が商法や証券取引法に関する法的素養をそれほど持っている印象を受けなかった。少なくとも、彼の文脈に言う「株主価値」と学術上のそれとはイコールではない。
そういうわけで、村上ファンドが証券取引法違反の容疑がかけられた際に、細かい法律上の論点はあるにせよ、証拠さえ揃えば、堀江より分が悪いような気がしていた。
そこで、また記者会見に想像が戻る。
いったい、誰に向けてメッセージを発したか。ヒントは村上自身の言葉の中にある。
「ニッポン放送株のTOB(株式公開買い付け)に『協力していただけますか』という話を聞いてしまった」「私は投資家のプロ。認識が甘かったと判断し、検察の調書にサインした。私自身が起訴されるのは間違いない。」「(阪急ホールディングスの)TOB(株式公開買い付け)には基本的に応じようと思う。」
そして、どうしても信じ難い「一線から身を引く」―。
彼は、テレビの向こうの権力者達にまるで、自分が何を話し、何を話していないのか、これからどうするつもりなのか―。を訴えているように見えた。
心ある検察官たちは、腸煮えくり返る思いであっただろう。

お断りしておくが、これは全て邪推である。
ただ一つ言えること。
もし、この記者会見で特捜検察はダシにされ、権力者達と村上ファンドとの間の壮大な「手打ち」と「司法取引」という茶番を仲介されただけだとしたら。
そんなことは絶対に許されないことであるということだ。
by foresight1974 | 2006-06-05 21:56 | 正義の手続を考える

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974