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ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(12・最終回)「著名事件は悪法を作った」

 当連載の最終回は、ライブドア・フジテレビ問題が与えた影響を考えたい。
 
 まず、社会全体に与えた影響を考えると、ライブドア・フジテレビ問題は、そのセンセーショナルな取り上げられ方が良くも悪くも象徴的な意味合いを持ってしまったことは間違いはない。後世の人々も、この時代の空気を理解する事件で、この事件に触れざるを得ないだろう。劇場型の買収劇、法技術の粋を尽くしたに見せかけた法務攻防、最後の劇的な和解まで、素人的視点では「ヘタなドラマより面白い」という印象はあったのではないだろうか。

 また、この問題はジャーナリズムのあり方にも重大な疑問を投げかけた。当連載では産経新聞の報道姿勢を通じてこの点を取り上げたが、その後に続いた村上ファンドの阪神電鉄株取得事件、楽天のTBS株取得事件でも、利害関係のあるメディアによって同様の報道が繰り返されることになった。産経新聞だけが「ド変態」というわけではないことは指摘しておきたい。

 法的見地からはどうだろうか。これまでに、ライブドアの資金調達方法は合法であること、世間でいろいろと取り沙汰された防衛策は、実は現行商法でも可能であり、新会社法でも技術的な差がある程度にすぎないことも指摘した。
 また、ニッポン放送が発行した新株予約権に関する裁判所の判断の枠組みも従来の判例から逸脱したものではなく、その後に発生したニレコ事件、日本技術開発事件でも踏襲されている。判断の枠組みの「深化」の問題はあるものの、今回の問題が法的見地から決定的な「パラダイムシフト」を起こす事例ではないといえる。
 今回の問題に関連して、ある弁護士(匿名で報道されていたが、日比谷パーク法律事務所の久保利英明弁護士と推測される)が、「この事件のせいで日本のM&Aは10年前遅れた」と嘆いたと伝わっている。しかし、今日の新聞報道にもあるとおり、日本のM&Aは年間3,000件近くに達し、業種も金額も多様に富んでいる。目立つ事件ばかりがM&Aではない。実務的に大きな影響を与えていく事例がこれから何件も出てくることになるだろう。

 では、政治や政策に与えた影響はどうだろうか。
 今回の問題で重要なのは、保守勢力と政治的つながりの深いフジサンケイグループを狙った敵対的買収劇だったということだ。
 今回の問題に関し、政治家がどのように立ち回ったのかを検証し、最終回としたい。



 ライブドアが申請した、ニッポン放送の新株予約権発行差止めの仮処分について、東京地裁が決定を出した3月12日、日本経済新聞に自民党が会社法の修正を決めたという記事が掲載された。
 前日の11日、自民党の法務部会・商法小委員会の合同会議で、「企業防衛策を採用する機会確保のため、合併対価の柔軟化に関する部分の施行は1年後とする」決議がなされ、会社法の一部修正が行われた。
 結局、当該部分は施行を1年先送りすることで決着したが、ライブドアの行動がいかに「政治」を刺激したかの象徴的な事件である。

 その他に、ライブドアの後に続く者が出てこないよう、証券取引法が改正され、立会外取引で大量に株式を取得する場合にもTOBの手続を義務付けられることになった。
 このこと自体は妥当な改正である。が、「なぜ」ということになると疑問がある。
 もともと、立会外取引がTOBの規制の対象外だったのは、市場を混乱させずに大量の自社株を売却したり、消却したりするためである。本来みなし譲渡益課税されるはずだが、売却が入ることにより節税する効果がある。ライブドアが騒ぎを起こす前、本来ならみなし譲渡益課税になるはずの企業のいかがわしい株取引が数多く行われていたのである。何を隠そう、フジテレビもニッポン放送を子会社化する課程において、同じ手法で株式を大量に取得しているのである。自ら同じ手法で株を買い集めておきながら、同じ手口を使ったライブドアを批判すると言うのはせせら笑うばかりである。

 これらの改正には平沢勝栄、甘利明、武藤嘉文、桜井新、小林興起など証券取引法はおろか、会社法のカの字も知らなさそうな面々が顔をそろえた。
 前掲の日経記事によれば、修正を決議する部会会場は珍しく満員に膨れ上がったという。商法「会社篇」の口語化問題から10年、積み重ねてきた議論の結論はわずか2日で変更された。

 中には滑稽な改正も含まれている。「合併対価の柔軟化」の先送りの中には三角合併も含まれていた。
 例えば、外国企業A社が日本に100%子会社B社を設立してB社が日本企業C社を吸収合併する場合を考える。この際、B社は、C社の株主に、自社株式ではなく、親会社である外国企業A社の株式を交付する。B社は合併の受け皿会社に過ぎないため、実質的には外国企業A社が日本企業C社を買収したのと同じになる。
 しかし、この手続には株主総会の特別決議が必要とされている。また、決議要件は定款で加重が可能であり、これだけで敵対的買収を促進する効果などない。
 むしろ、この手続によりゴーイング・プライベートを行うことによる完全子会社化による企業防衛策が充実するのであり、研究所や論文の中には三角合併は敵対的買収に対する「防衛策」として分類するものもあるくらいである。
 自民党のバカ議員どもは自らの手で敵対的買収に対する防衛策を葬ったことになる。
 
 かつて、アメリカ司法界の良心といわれたオリバー・ウェンデル・ホームズ連邦最高裁判事は、「著名事件は悪法を作る」という有名な法諺を残した。(a wake in muddleさんのブログより
 それを、ライブドア・フジテレビ問題にあてはめるならば、「著名事件は悪法を作った」ということになりはしないだろうか。
 冒頭にも書いたとおり、日本でのM&A案件は年間3,000件近くに迫っている。事業再編は消して他人事ではないのだが、担当者は手ごわい交渉相手だけではなく、うんざりするほど無能な政治家も相手にしなければならない時代なのである。
(連載終わり)
by foresight1974 | 2005-12-29 12:00 | 企業統治の公共精神

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


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