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ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(7)「敵対的買収に対する防衛策(1)」

 今回からいよいよ佳境の部分、敵対的買収に対する防衛策の法的問題について論じていきたい。
 買収防衛策といっても法律上の制度から事実上の制度まで様々な手法があり、全てを論じることを試みるとそれだけで一冊の本が出来上がってしまう。
 そこで、今回はその中でポピュラーなものを中心に論じていくこととする。また、最近の法制度の改正に合わせ、次回は新会社法での買収防衛策について論じることにしたい。




 買収防衛策はまず敵対的買収開始時を基準に、事前のものと事後のものに分類出来る。要するに、平時の備えと有事の備えに分けられるわけだ。

1.平時の備え

  ① 配当政策とIR
 平時の備えでいえば、高配当政策とIR(投資情報の適時開示活動)が挙げられる。いずれも商法上何らかの義務付けがあるわけではないが、敵対的買収は通常内部留保の多い企業が狙われるので、企業の事業内容に合わせた適度な配当を実施すれば狙われること自体を防止することが出来る。また、いったん敵対的買収が始まれば投資家の動向が大きな鍵を握るが、平時より投資家に情報を開示しない企業が支持を集められるわけがない。2003年に金属加工油剤大手のユシロ化学と毛織染色大手のソトーに対し、米国の投資ファンド(SPJSF)が実施した敵対的買収は、両社が配当に関して適切な意見表明を行いSP側に株式が集まらなかったため、買収を断念させる決め手となった。
 実際には、敵対的買収が始まると防衛側も法務業務に大変なコストをかけるため、多額の出費を余儀なくされる。ポイズン・ピルなどの言葉も広く知られるようになったが、そうした技術的な防衛策を講じる前に、企業価値と配当のバランスを取り、円滑なディスクロージャーを実施しておくことが、非常に有効なのである。

  ② ポイズン・ピル
 ライツプランともいう。既存株主や友好的株主に拒否権などのオプションがついたライツ(新株予約権)を発行する買収予防策である。買収者の持ち株比率を劇的に低下させ、買収を著しく困難にする状態を、英米法の世界では毒がまわったように比喩的に表現するため、ポイズン・ピル(毒薬)という名前が付いた。
 この制度は有事の備えにも思えるが、英米法では事前に株主総会で承認されなければ導入することが出来ず、また実際の発動にあたっての「トリガー(客観的基準)」が明らかにされているため、買収者が不測の損害を被らないように配慮されている。実際にも手違いによる1件以外発動例もない。実務上は買収にあたっての交渉の機会と時間の確保のために用いられているのである。
 日本の場合、現行法では3つのポイズン・ピルを制度化することが出来る。

 A. 新株予約権の発行(280条ノ20第2項6号)
 買収が開始された場合に、買収者以外の株主だけが行使することが出来る新株予約権を発行する。
 B. 拒否権付株式の発行(222条9項)
 株主総会の合併承認決議や取締役の解任決議に対して拒否権を持つ特殊な株式(黄金株)を友好的企業に対して発行する。
 C. 強制転換条項付株式の発行(222条ノ8)
 一定割合以上の株式を買い占めた買収者の株式を会社が強制的に取得して、議決権制限会社に転換してしまうことができるような強制転換条項付株式を発行する。

  ③ 取締役期差選任条項(スタガード・ボード条項)
 取締役を複数のグループに分け、選任時期をずらす方法である。米国ではポイズン・ピルと並んで広く用いられている買収防衛策である。
 日本の商法上は条文上の許容規定はないが、解釈上導入は可能と解する論者もある(後掲参考文献参照)。しかし、期差選任は取締役を最低3グループに分け、1度目の株主総会で取締役の半数の選解任を阻止することで、はじめて有効に機能する(そうしないと、1年目で買収者と対象会社側とでデッド・ロックが生じる)ところ、商法上取締役の任期は最長2年とされており(256条)、任期中であっても株主総会の特別決議があれば解任されてしまうので効果は限定的である。また、取締役任期を1年以内としている委員会等設置会社では導入は物理的に不可能である。

  ④ 取締役の定数
 取締役の定数の問題も重要である。買収者が既存の取締役の解任を断念する代わりにその倍する取締役を送り込むことも商法上可能である。
 そのため、一般的には定款で取締役の定数に上限を設けることが望ましいとされている。

 2.有事の備え

 では、実際に有事(敵対的買収)が起きてしまった場合はどのような防衛策を取りうるのだろうか。

  ① 金庫株の利用
 金庫株とは発行会社自身が取得した自己株式のことをいう。平成13年の商法改正によりそれまで禁じられてきた自社の株式取得が認められることになった。敵対的買収に対しては、(ア)平時より自己株式を取得して株価を高値調整することにより、敵対的買収を一般的に予防する。(イ)敵対的買収が開始された場合、防戦買いとしての公開買付を実施することが可能になった。
 しかし、(イ)の場合買収者は高値になったときに売り逃げをかけるというオプションを握らせてしまうというデメリットがある。そのため米国法では買収者以外の株式のみを買付ける選択的公開買付制度が導入されているが、日本で導入できるかは証券取引法の解釈上疑問が残されている。
 また、取得した自己株式を使って議決権を行使することが出来ないので、下手をすると議決権ベースでの持ち株比率では買収者を相対的に利する結果になりかねないリスクもある。そのため、論者によってはむしろ取得していた自己株式を大量に市場に放出させる方が結果的に買収コストを引き上げる効果があると主張される。

  ② 防戦買い(ホワイト・ナイトの活用)
 証券取引法のインサイダー取引の例外として、経営陣の依頼により友好的株主その他第三者が防戦買いをすることを認めている。(証取法166条6項4号)
 しかし、かかる防戦買いの場合にはホワイト・ナイトによる対抗TOBに賛成することが防衛側取締役の善管注意義務違反や利益相反取引に当たる場合がある。また、株主の権利の行使に関する利益供与(商法295条)に当たらないように注意する必要がある。

  ③ 合併
 ちょっとした裏技に当たるが、合併により発行株式数を大幅に増加させて買収を頓挫させる方法もある。ただし、敵対的買収工作は比較的短期間に行われるので、現行商法で活用可能なのは、子会社との簡易合併(413条ノ3)など限られたケースになると思われる。

  ④ パックマン・ディフェンス
 有名なTVゲームである「パックマン」に喩えた防衛策である。敵対的買収をかけられた会社が逆に買収者の株式を買い集めて支配権を掌握し、買収工作を頓挫させる方法である。日本の現行法では商法241条3項の活用により同様の防衛策を講じることが可能である。

  ⑤ 契約による買収抑止策
 この他、ゴーイングプライベート(非公開会社化)やクラウン・ジュエル・ロックアップ(会社の重要資産の先買権契約)、ゴールデン・パラシュート(敵対的買収の場合における退任取締役の割増退職金制度)などがある。しかし、こうした制度導入が濫用的になると取締役の責任を問われる場合や、独占禁止法に定めた「不公正な取引方法」に抵触するリスクもある。

  ⑥ 第三者割当増資
 実は、今まで日本では上記のような敵対的買収防衛策は一般的ではなかった。ポイズン・ピルなどは税務上の取扱いが明確ではなく、その他の防衛策も商法解釈上のリスクが存在したため(ただし現行商法上、いずれの防衛策も禁止されていない)、企業側が導入をためらったという事情もあるが、日本の場合、メイン銀行を中心とした株式の持合い構造が強力な買収防衛策として機能していたため、欧米のような防衛策の構築の必要に迫られていなかったという事情もある。
 それでも敵対的買収をしかけられた場合、事前にほとんど準備をしていない防衛側が最も多用した手段が、実務上最も手馴れた資金調達手法である第三者割当増資だったのはごく自然な成り行きであっただろう。
 現行商法では取締役会のみの決議で、取引先等の第三者に対し、新株予約権を発行することによって安定株式比率を高めることが出来る。
 なお、今回のライブドア・フジテレビ問題で一部ブロガーがニッポン放送の新株予約権発行を「ポイズン・ピル発動」と主張したのは、ニッポン放送の新株予約権が事前に株主総会の決議で承認を得ていない点で大きな間違いを犯している。

(次回につづく)

 ※ 参考文献
八代 英輝「米国の事例から学ぶ 敵対的M&Aに対抗する4つの手法」(ビジネス実務法務2003年2月号 中央経済社)
大塚 章男「敵対的TOBの予防と対抗策」(ビジネス実務法務2004年8月号 中央経済社)
大塚 章男「総会前に知っておきたいM&A防衛対策一覧」(ビジネス実務法務2005年7月号 中央経済社)
経済産業省 企業価値研究会「論点公開 公正な企業社会のルール形成に向けた提案」(経済産業省 平成17年4月22日)
by foresight1974 | 2005-11-08 21:38 | 企業統治の公共精神

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