ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(6)「検証されなかったTOB規制の妥当性」

 今回は、TOB規制の問題点を取り上げたい。
 ライブドア・フジテレビ問題において、主要な争点となった一つが、ライブドアがTOB規制に違反しているのかどうかという点である。
 問題となる条文を以下に記しておこう。

※証券取引法(平成17年改正後のもの)
第27条の2 その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第27条の30の11(第4項を除く。)において「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場における有価証券の売買等(競売買の方法以外の方法による有価証券の売買等として内閣総理大臣が定めるもの(第4号において「特定売買等」という。)を除く。第1号において同じ。)による買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)以外の買付け等は、公開買付けによらなければならない。ただし、次に掲げる株券等の買付け等については、この限りでない。
(1号~4号は編集で省略しました)
5.著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等(当該株券等の買付け等を行う者及びその特別関係者の株券等所有割合の合計が3分の1を超えない場合に限る。)





 当連載の第3回「ライブドアの錬金術の適法性について」でも書いたが、ライブドアの行為に違法性はない。
 むしろ、フジサンケイグループが総力を挙げて擁護しようとしたこの3分の1ルールこそ、実は問題がある規制なのである。

 平成15年12月9日、金融庁の金融審議会において「ディスクロージャー・ワーキング・グループ」報告という報告が行われた。(議事録はこちら
 これによれば、上記3分の1ルールについての妥当性が、条文解釈を含めて広範囲かつ全般的な議論が行われていたのである。

 ところが、ライブドア・フジテレビ問題が持ち上がり世間の注目を集めると証券取引上の一大論点であった、「3分の1ルールの妥当性」は全く忘れ去られてしまった。

 問題が佳境にあったなか、改めてこの問題に光を当てようとした試みが47th氏が執筆しているブログ「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」である。3月8日の「TOBルール「強化」の証取法改正案ねぇ・・・」の中で、この議論を取り上げておられる。

 47th氏は、おそらく金融当局に近い立場の方のようで、「そもそも「1/3ルール」の存在意義やその適用範囲については、過去の金融庁の審議会でも激しい議論になっていて(参照:平成15年12月9日「ディスクロージャー・ワーキング・グループ」報告)、少なくとも、これまでは「1/3ルール」の緩和論と強化論が一進一退の攻防を繰り広げていたわけです。
そこでは、根本的なところで、米国型とも英国型ともいえない、この中途半端な「1/3ルール」が必須なのか(法が強制すべきなのか)という対立があったわけです。」と書かれていて、報告書や議事録からは伺い知れない事情をご存知かとお見受けする。

 ただし、引用されている報告書および同日に行われた金融審議会議事録からは、活発に議論が行われた旨の報告が行われているものの、深刻な対立をうかがわせる記述はなかった。全体の議事録からは、金融サービス法制定をにらんで、投資家に不測の損害を与えないためにどう規制をかけていくかという点に議論が集中しており、「3分の1ルール」の妥当性に関しても、上記の視点からの主張と、企業再編の機動性の視点からの意見の対立という流れになっており、今回の事件にからむような時間外取引や市場の定義といった論点の議論はなされていない。
 
 つまり、今回のライブドアの資金調達・株式取得のルールは金融当局側にとってまさに「不意打ち」だったことが推測される。

 もともと、立会外取引が3分の1ルールの規制から外れていたのはなぜか。
 これは立法の誤謬では断じてない。金融審議会議事録からも分かるように、市場に影響を与えずに企業再編を迅速に実施するため、主に上場企業の自社株買いやグループ会社の株式交換などを想定して外れていたのである。
 しかし、そうはいってもいずれも企業経営の重大事項に関わるものであり、仕手筋などがこの「抜け穴」を巧みに利用していた実態は存在していた。ライブドアは社長のキャラもあってか、はしゃぎすぎただけなのである。

 3分の1ルールが果たして妥当かどうかについては議論の余地がある。
 もともと、3分の1が良いか5分の2が良いのか(あるいは4分の1なのか)という点は議論の実益がない。「線を引くこと自体に意義はないが、決められた線を守ることに意義がある」ルールだからである。
 前掲の議事録によれば、この3分の1ルールを維持することになったようであるが、それについて説得力がある理由が示されたわけではない。
 
 ここで大事なポイントとして指摘したいことは2つである。
1つ目は、当連載3回目「ライブドアの錬金術の適法性について」でも強調したが、法律に書いていないことはやろうとやるまいと自由が原則だということである。
2つ目は、ライブドア・フジテレビ問題が法制度のスキを突いた問題であるならば、それを突いたライブドアだけではなく、法制度そのものの妥当性を検証しなければ公平さを欠くことになるということだ。産経新聞は日頃は、憲法9条についてはまるで悪法のように言い募るが、今回の問題において証券取引法を金科玉条のように礼賛し、それに対し、ライブドアについては厳密には法に違反していないにも関わらず、「脱法」「法を無視した」と書きたてたのである。自分が不利になる事には信念を貫くことが出来ない。はしたない輩なのである。

 その後このルールが骨抜きにされるリスクを改めて示す事件が起きた。
 村上ファンドによる阪神電鉄株の大量取得事件である。市場から株式を買い集めただけでなく、市場外で新株予約権付社債を購入し、それを株式に転換して持ち株比率を高めたこの手法によって、6月に改正したばかりの証券取引法は早くも機能不全をさらけ出したのである。

 前掲のブログにおいて、47th氏は以下のように指摘している。
「そこでは、根本的なところで、米国型とも英国型ともいえない、この中途半端な「1/3ルール」が必須なのか(法が強制すべきなのか)という対立があったわけです。
ところが、今回のようなことがあると、「脱法はいけない」という論理を裏付けるために、「法律は正しい」という前提で議論が進んでしまっているように見えます。
本当は、こういうことが起きてしまった本当の原因がどこにあるのか、そもそものルールの合理性に立ち戻って考えないといけないはずなのに・・・」
 機会を改めてまた述べたいと思うが、現実はこれに逆行した法規制が行われた。
 その結果の村上ファンド・阪神電鉄問題なのである。自らの歪みにメディアも政治家も気がつかない限り、同じことは何度でも繰り返される。
 
※この記事のヒントをいただいた47th氏に感謝申し上げます。
※参考記事「TOBルール「強化」の証取法改正案ねぇ・・・」ふぉーりん・あとにーの憂鬱 2005年3月8日
http://blog.drecom.jp/fallin_attorney/archive/111
by foresight1974 | 2005-10-29 20:56 | 企業統治の公共精神

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