ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(3)「ライブドアの錬金術の適法性について」

 さて、今回からいよいよ本論に入っていきたい。
 最初に、ライブドアがニッポン放送の株式取得のために利用した東証の立会外取引と資金調達スキームの適法性について検討しておこう。



 まず、東証の立会外取引とは何か。
 これは、東京証券取引所を通じて行われる時間外取引のことをいう。通常、東証での株式取引は、午前9時から午前11時、午後0時30分から午後3時にかけて行われる。立会外取引はこの時間外、すなわち午前8時20分から午前9時、午前11時から午後0時30分及び午後3時から午後4時30分の間に行われる。ただし、取引自体は東証のシステムを利用するため、「市場内」での取引として扱われる。ライブドアの場合、今年2月8日の午前8時20分から午前9時までの間に、これを利用してニッポン放送株を29.63%取得している。(なお、残りの5.36%は今年1月7日から2月7日までに取得したことが判明している)
 この取引は何が問題なのだろうか?
 それについては、21世紀政策研究所のページが分かりやすくまとめられているので引用したい。


1、 証券取引法によると、取引所有価証券市場外における株式買付が持株比率の3分の1超となる場合は、公開買付によらなければなりません。
 本件では、そうした3分の1超の取得のケースであるにもかかわらず、公開買付ではなく立会外取引で株式取得が行われています。この背景には、立会外取引を証券取引法上市場取引と解釈するのか、それとも市場外と解釈するのかについて明確な基準がないという問題があります。

2、 公開買付による株式取得の場合、株式の取得理由と取得価格を「有価証券届出書」に記載する必要があるため、フジテレビはニッポン放送株の公開買付時に、取得理由と買付価格5,950円を記載した「有価証券届出書」を公表したうえで株式を取得しています。
 一方、ライブドアは、立会外取引という方法をとったため、公開買付であれば提出すべき「有価証券届出書」を出さず、また、取得理由も取得価格も公表せぬまま、一部の株主から6,050円で株式を取得しました。
 買収される側であるニッポン放送の経営陣は、両者が公開買付による取得を行っていた場合、双方の買収提案を比較検討したうえで、その検討結果を自社の「意見表明報告書」で公表する必要がありました。しかし、本件では、ライブドアが立会外取引という手段をとったため、フジテレビの公開買付のみに対する意見表明報告が行われており、ライブドアの買収提案との比較検討の内容は盛り込まれていません。
 このため、ライブドアに売却できなかったニッポン放送の既存株主には、取得理由・取得価格・被買収者の比較検討意見といった判断材料が与えられておらず、また、6,050円で応募するという機会も奪われた状況となっています。

3、 また、公開買付規制では、別途買付禁止の規制があり、フジテレビは買付期間・買付株式数を公表し、公開買付以外に別途市場では買付ができないことになっていますが、今回、ライブドアは立会外取引を行ったため、買付期間・買付株式数を公表せず、市場で買増しを進めることも可能となっています。
(番号編集は筆者による。読み手に分かりやすいように付けました)


 さて、ここで大事な視点を強調しておきたい。
自由主義社会における経済取引に関する原則は、「法で出来ないとされていない以上、「出来る」」ということである。
 この国では、とかく法律に書いていないことは「やってはいけない」ことのように考える傾向がある。この点は、欧米社会と「法治国家」の意味の捉え方について決定的に異なる点である。
 確かに、21世紀政策研究所のページで指摘されているように、ライブドアの立会外取引は一般株主への説明義務の観点、応募機会の公平性の観点、さらには取引の公平性の観点からも問題がある。
 しかし、そのことと「ライブドアが取った行動が適法か」どうかとは全く別次元の問題であるということである。買収目的で立会外取引を規制するかどうかは金融当局に判断の責任があり、ライブドアとしては、立会外取引を利用して株式を取得するかどうかは経営判断の選択の問題に過ぎないのである。
 また、後の機会に詳細を譲りたいが、果たしてTOB規制に関して証券取引法の3分の1ルール自体が妥当なのかどうかという議論もある。それ自体の妥当性を「当然の前提」としてライブドアの株式取得を非難することが果たして正しいのかどうかという問題だ。

 これらの議論を無視して、産経新聞などの一部メディアはあたかもライブドアが違法行為でも働いたかのような報道を繰り広げた。買収される側の一方当事者の立場とはいえ、常日頃朝日新聞などに報道の公平性とやらを説いている高尚な態度はみじんもみられない。実にあさましく見苦しい態度であった。
 この点の詳細の検証は次回に譲ることにする。

 次に、ライブドアがニッポン放送株式取得のために使った資金調達スキーム、下方修正条項付転換社債という手法について検討しよう。
 転換社債(転換社債型新株予約権付社債)とは、一定の価格(転換価格)で株式に転換する権利が付された社債、つまり会社の借金である。下方修正条項とは、この転換価格を発行当初の額よりも引き下げることを定めた条項をいう。
 ライブドアの場合、ニッポン放送株を取得した2月8日同日、取締役会でM&A資金等に充当する目的で、800億円の転換社債発行を決議・発行した。この800億円は外資系証券会社リーマン・ブラザーズの関連会社が全額買い付け、2月24日に払い込みが完了している。この転換社債では、次のような下方修正条項が付いていた。

「本社債の発行後、毎週金曜日(以下、決定日という。)の翌取引日以降、転換価額は、決定日までの3連続取引日の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の毎日の売買高加重平均価格の平均値の90%に相当する全額(以下、「修正後転換価額」という。)に修正される。但し、かかる算出の結果、修正後転換価額が157円(以下、「下限転換価額」という。)を下回る場合には、修正後転換価額は下限転換価額とする。」
(「ライブドア/リーマンの資金調達スキーム『下方修正条項付転換社債』」山中眞人より 出典:ビジネス法務2005年5月号 中央経済社)

 見慣れない人には難解かと思われるが、要するにこの条項では①転換価額は毎週変わること。②リーマン側は転換価額が下がれば下がるほど安く株式を取得できることになるわけである。

 当初、ネット上でこの社債発行について「ライブドアが外資に乗っ取られる(ざまあみろ)」という見解がネットウヨクを中心に広がったが、それは転換社債について全く無知と言わざるを得ない(まあ、こんな手合いは急ごしらえで準備したバカばかりだろうが)。山中弁護士も指摘しているが、そもそも、証券会社がこうした社債を買い付けるのは支配目的ではなく、あくまで「安く株式を取得して、高く売り抜ける」ためのものである。その証拠に、本件の社債発行に関して、社債は会社の借金であるにも関わらず、利息はゼロ。つまり、株式を取得して売り抜ける額が利息相当分にあたるとリーマンは考えているのである。

 問題は、こうした転換社債発行が商法上の規制に触れないか、という点だ。
 現行商法では341条の3第3項、280条の21第1項において、既存株主以外の者に対して「特ニ有利ナル条件」で新株予約権を付した社債を発行する場合に株主総会の特別決議を要求しているからだ。転換社債が株式に転換された場合、既存株主にとって持ち株比率の低下や一株当たりの価値が希薄化されるなどの不利益を被る可能性があるからである。

 この点、山中弁護士は前掲論文の中で、横河電機事件最高裁判決(最判昭50.4.8)を紹介されている。これは買取引受(証券会社が、新株の全部または一部の募集を一括して引受け、これを一般に売出し、その後で株金の払込をし、発行会社から受取った株券を買受けた者に引渡すものである。この場合の売出価額と所見会社が払込む株金額は同額とされる。)の論点について、最高裁が判断したものである。

「普通株式を発行し、その株式が証券取引所に上場されている株式会社が、額面普通株式を株主以外の第三者に対していわゆる時価発行をして有利な資本調達を企図する場合に、その発行価額をいかに定めるべきかは、本来は、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めるべきものであり、この見地からする発行価額は旧株の時価と等しくならなければならないのであって、このようにすれば旧株主の利益を害することはないが、新株を消化し資本調達の目的を達成することの見地からは、原則として発行価額を右より多少引き下げる必要があり、この要請を全く無視することもできない。そこで、この場合における公正発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価額、右株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行ずみ株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。」(最判昭50年4月8日)


 この判例は、一般に新株発行においてその価額が公正かどうかについての判断基準として引用されることが多いが、本件のような類似の資金調達スキームについても引用可能であると考えられる。
 なお、神田秀樹東京大学教授は、新株予約権については平成13年の商法改正によって一般的な規定を設けたため、本件のような新株予約権付社債の場合についても、これと整合性のとれた解釈が妥当である、と主張されている。(詳細は神田「会社法(第5版)」P.246を参照されたい。)
 詳しい検討は割愛するが、いずれにせよ、単に引受けた証券会社に有利なオプションが付いたからといって、ただちに新株引受権付転換社債の有利発行と考えるべきではなく、当該転換社債の価値自体を基準にしつつも、その資金調達スキームがどういった「意味」をもつのかという本質的部分の究明が必要なことは間違いない。ライブドアの場合、時価の90%の価額で株式を取得するが、差額10%は本来、社債発行のときに支払うべき利息であり、しかもそれがかなりの変動幅を持っていることを考えると、違法な有利発行とはいえないと考えられる。
 また、山中弁護士も前掲論文で指摘しているが、本件において、転換価格は毎週変わるが、上方修正に限界はない。つまりリーマン・ブラザーズにとっては転換価格を固定した方が得であった場合も発生するわけで、その限りでリスクをとっている。(つまり、「特ニ有利ナル条件」には当たらないとも考えられる。
 もちろん、こうした指摘は小理屈の類であることは承知している。実際には、大量の社債発行による資金調達でライブドアの株式が大幅に希薄化するリスクが生じたため、株価は一時期大きく下げることになった。その後、この問題が収束するに向かい、株価も反転したためリーマンはしっかりと売り抜けることが出来たのであり、実際にリーマンは相当おいしい立場にいたことになる。

 では、一般投資家はどうするべきだったのだろうか?
 これについての答えは、私の敬愛するrakudaht氏のブログ「駱駝なる日々/ライブドア騒動について考えてみた」から引用したい。

ライブドアの株価は あれよあれよ 下がってしまいました。これは、理屈的にはしょうがない。800億円の資金調達にMSCBという手段を使ったのだから これはあくまで自然。リーマンブラザースの空売り行為はビジネスライクにいえば当然。堀江氏もそれを承知の上でやってます。しかし、これはテクニカルな話であって 本来的に株価というのは 現在価値を買うのではなく将来的価値を買うという見地にたてば 堀江氏の手腕を信じる人は買えばよいし そうでない人は売ればよい。株を売買するということは それだけリスクがあるしリターンもあるのだから。。。株価は市場と言う神様が決めるのだから これに文句を言う投資家は甘い。


■参考文献
「ライブドア/リーマンの資金調達スキーム「下方修正付転換社債」」山中眞人 ビジネス法務2005年5月号 中央経済社
「会社法(第5版)」神田秀樹 弘文堂
by foresight1974 | 2005-10-02 21:30 | 企業統治の公共精神

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