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BS-i「報道の魂/ある名誉毀損判決の波紋」(続・対話の回路が脅かされる時代に)

 言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し,十分な反論を行い,それが功を奏した場合は,被害者の社会的評価は低下していないと評価することが可能であるから,このような場合にも,一部の表現を殊更取り出して表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を萎縮させるおそれがあり,相当とはいえない。
(ニフティ「本と雑誌のフォーラム」事件・東京地裁判決平成13年8月27日)

 自らの意思で社会に向かって発言する者は,当然,自己の発言・主張が反対の立場の者から批判され,反論されることを覚悟しなければならない。名誉毀損となる人格攻撃がされたとしても,批判や反論は,論争点に関連している限り,許容される。節度を越えたかどうかは,論争の聴衆によって判断され,論争の場に自ら身を置いた以上,批判には対抗言論で答えるべきであり,公権力を借りて批判を封じるようなことは,よほどのことがない限り許されない。
(ニフティサーブ「現代思想」フォーラム事件・東京高裁平成13年9月5日)




 今回冒頭にご紹介した2つの判例は、いずれもインターネット黎明期に出された、表現の自由に関する重要な判例であり、一般に「対抗言論の法理」と呼ばれる。
 言論に対しては言論で応じるべき、という民主社会では当然の考え方を述べたものであるが、昨年、これを骨抜きにしかねない判決が、同じ東京地裁において下された。

「コメント掲載で100万円賠償 オリコン名誉棄損判決」(2008年4月22日・共同通信より)
 音楽市場調査会社「オリコン」が、同社の音楽ヒットチャートの信用を損なうコメントを月刊誌でしたとして、ジャーナリストの烏賀陽弘道さんに5000万円の賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は22日、100万円の支払いを命じた。 


 この訴訟は現在は東京高裁にて係争中である。
 これをTBS「報道の魂」は、21世紀においてもなお「昭和のテレビジャーナリズム」が息づく、良質の調査報道番組だ。(BS-iで本日、再放送された。)

 この訴訟には、いくつもの不審な点がある。
 まず、同番組でも取り上げているが、言論には言論で対抗することなく、公権力を利用して封じ込めようとする形態の訴訟を米国では「SLAPP(嫌がらせ訴訟)」と呼び、25の州では違法とされている。
 日本ではこうした法理を援用した学説はあるものの、裁判所ではこうした訴訟を違法とはしていない。(ただし、武富士事件のように「嫌がらせ訴訟」の概念を事実認定で認めた判例は存在する。)
 そればかりか、オリコン側の請求を認めることで、逆にこうした訴訟の「合法性」を追認してしまった。

 次に、執筆者や編集責任者は訴えず、雑誌の取材先となったジャーナリストだけを訴えた点。ニュースソースを保護することは、自由な報道を認める大前提であり、表現の自由の重要な要素として保護されているが、東京地裁の判決は、この大前提を踏みにじるものである。
 番組内にて、イギリスの記者がこの裁判にいかに「呆れ返ったか」が話題にされていたが、そのくらい、今回の判決は報道の常識からズレているのである。

 まだある。
 同番組を視聴して初めて知ったのであるが、東京地裁は烏賀陽氏の証人申請をことごとく却下しているのだが、その際に「本件は外形的事実のみで判断できる」という重要な示唆を行っているのである。つまり、本件で争点となった記事のみで判決を下せるというのだが、耳を疑う傲慢な訴訟指揮である。
 かねて、報道の自由に関する判例が考えているポイントは、比較衡量を前提としつつも、その表現行為が表現の自由に基づくものであり、そこに「相当の理由(根拠)」があるかどうかを主要な争点としてきた。
 被告側の証人申請を一方的に却下し、記事に掲載された外形的事実のみで判決を下すことは、言語道断であるばかりか、端的に言って判例違反であろう。
 このような判決を、控訴審(東京高裁)がストレートに是認するとは到底思えないが(事実、審理は一回で結審されず、続行されたようである。)、企業が報道機関ではなく、ニュースソースを訴えるという異常な構図に、裁判所がどのような判断をくだすのだろうか。
 表現の自由が狭められ、賠償が高額化するという最近の判例の流れを見ると、危機感を強く抱かざるを得ない。

 おことわりしておくが、私は別に、「サイゾー」その他の報道媒体で発言された烏賀陽氏の発言について、何らの知識を持ち合わせてはいない。
 しかしながら、こうした発言に対して、言論で対抗することなく、公権力を利用して封じ込めにかかることが、自由な言論社会にいかに大きな脅威となるか、そのことを指摘したいのである。

*追記
 この話題にかこつけたわけではないが、この判決を読んで一人でも多くの方が「やっぱ、裁判官だけに裁判まかせちゃマズイでしょ」と思っていただきたいものです。笑
 私は裁判員制度に賛成なわけではなく、逆に多くの欠陥を指摘しうるのだが、安っぽい反対論者が言うような、「裁判はプロに任せておけ」的な短絡的反対論にはどうしてもうなづきかねるだけです。
by foresight1974 | 2009-01-18 23:03 | 表現の自由への長い道距

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