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Interest of Justice

「正義の利益」

英米法の世界では、interestは一般に「利益」「利率」と訳されることが多く、justiceは文字通り「正義」を意味するが、日本語の「正義」とは若干ニュアンスが異なり、「公正」(fairness)のニュアンスに近い。

契約書や法律の条文、裁判所の判決文など幅広く登場するが、使われる場面により若干訳例は異なっており、冒頭の訳例のほか、「正義のために」「正義の原則」「公正のために」「法的公正さ」「裁判(上)の利益」というようなばらつきが見られる。

ただ、この単語が使われる目的は共通しており、契約書や法律の条文等を形式的に適用・運用すると公正さや公平さ(衡平さ)に反する場合、「interest of justice」に基づいて適用を否定したり、適用や運用を修正・無効化したりするために用いられる。
また、上級裁判所が下級裁判所の判断の適正を判断する準則として、「interest of justice」を考慮していたか、といった観点を審査するケースにも用いられる。

justiceは、英米法の世界では重要な意義を持ち、契約書や法律の条文、裁判の判決文の正当性を支える上位概念である。
justiceに支えられていない(基礎づけられていない)法は、法たり得ない。


# by foresight1974 | 2020-12-31 23:55 | ブロガーたちの人生

戦後75年―戦争被害をまともに調べない国の衰退

...憲法には前記主張のような立法を積極的に命ずる明文の規定が存しないばかりでなく、かえつて、上告人らの主張するような戦争犠牲ないし戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかつたところであつて、これに対する補償は憲法の全く予想しないところというべきであり、したがつて、右のような戦争犠牲ないし戦争損害に対しては単に政策的見地からの配慮が考えられるにすぎないもの、すなわち、その補償のために適宜の立法措置を講ずるか否かの判断は国会の裁量的権限に委ねられるものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかというべきである(昭和四〇年(オ)第四一七号同四三年一一月二七日大法廷判決・民集二二巻一二号二八〇八頁参照)。
 そうすると、上告人らの前記主張にそう立法をしなかつた国会ないし国会議員の立法不作為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はないものというべきであるから、結局、右立法不作為は、国家賠償法一条一項の適用上、違法の評価を受けるものではないというべきである。
(最高裁判所第二小法廷昭和62年6月26日判決裁判集(民事)第151号147頁



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# by foresight1974 | 2020-08-16 23:00 | サイレント政治・社会評論

”インタレスト・オブ・ジャスティス”を巡る、果てのない旅(5・完)

堀田力がワシントンの一室で「インタレスト・オブ・ジャスティス」という言葉を聞いてから44年。
「正義」をめぐる、日本の司法制度は前進したといえるだろうか?

残念ながら、多くの司法ジャーナリストがノーと答えるだろうと予想する。

長年、国民から絶賛と厚い信頼を集めていた特捜検察の腐敗摘発の歴史は、実は検察首脳の政治的判断による事件選別の歴史といって過言ではない。
この後、政財界やマスコミに大量の未公開株をばらまいたリクルート事件では、贈賄側の本犯であった中曽根康弘は再び逮捕を免れている
一方で、バブルの紳士たちが頼った元特捜検事田中森一。オウム真理教捜査の暗部を暴こうとした安田好弘。2000年代に入ると、堀江貴文そして、村上世彰。政権交代の可能性が高まると、民主党政治家が相次いで「政治とカネ」の問題をめぐり狙い撃ちで摘発された。
その一方で、陸山会事件よりはるかに悪質な手口といえる、第一次安倍政権時代に発覚した事務所費の不正流用事件は1人の逮捕者も出ていない。第2次安倍政権ではドリルで証拠隠滅した小渕優子、明白な録音証拠まで残された甘利明までもが起訴を見送られている。経済界でも、堀江や村上よりはるかに違法性が高いとされる、日興コーディアル証券、東芝の不正会計で、やはり1人の逮捕者も出ていない。
実はロッキード事件自体、逮捕者の選別がされていた、とみるのが支配的である。まんまと病院に逃げ込んだ児玉のみならず、防衛庁の対潜哨戒機P3Cをめぐるルートでは、後に総理大臣となる中曽根康弘が捜査の手から逃れている。
ロッキード事件を捜査した検事たちを、文字通り身を挺して守った法務大臣・稲葉修が所属していたのは、中曽根派である。

1990年まで続き、今も東アジアに残っている冷戦型構造の国際情勢の中、対米協調を基調とする自民党政権が崩壊するような汚職摘発は、高度な政治的判断によって見送られてきた、とみる司法関係者は多い。

こうした構造が残されているにもかかわらず導入された現在の司法免責制度は、今後も時の検察首脳の政治的意思によって、事件の共犯者を選別的に保護する、法の下の不平等を助長する制度になりかねない。
そのことを如実に示したのが、司法免責制度第1号逮捕者となった、カルロス・ゴーンの金融商品取引法違反事件であろう。冷静に考えてみれば、億を超える金額の不正流用を、ゴーンが1人でPCを操作して実行するはずがない。大勢の共犯者が当然に予想される事件でありながら、逮捕された共犯者はグレッグ・ケリー1人だけである。

そして、2010年、すっかり色あせた特捜検察の栄光ばかりか、威信を失墜させる事件が起きた。
障害者郵便制度悪用事件をめぐる、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件である。当時の特捜部長までもが逮捕されることになったショッキングな事件の影響は大きく、この後、特捜検察は腐敗した政治権力への捜査能力をほぼ喪失する。

結局、堀田たちの奮闘は報われなかったのだろうか?
その結論を出すのはまだ早いように思われる。


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# by foresight1974 | 2020-07-25 23:00 | 正義の手続を考える

”インタレスト・オブ・ジャスティス”を巡る、果てのない旅(4)

1995年2月22日、ロッキード事件は最高裁判所大法廷判決の日を迎えた。

すでに一昨年の12月に田中角栄は死去。真の黒幕といわれた児玉誉士夫にいたっては、死後10年以上経っていた。
「思い出の事件を裁く最高裁」とは当時の司法関係者の自嘲の言葉だが、その通りの大裁判となってしまっていた。

当時存命中だった、贈賄側の檜山廣丸紅元会長と榎本敏夫元首相秘書官だけに下された最高裁判決は、いずれも上告棄却。
檜山の懲役2年6箇月の実刑と、榎本の懲役1年執行猶予3年の有罪判決が確定されたが、この判決文の中で、最高裁は田中角栄の収賄を事実認定する。「首相の犯罪」は最高裁判決として公式認定されたのである。

一方で、最高裁は、その最大の証拠であるコーチャン嘱託尋問調書について、次のようにも述べた。

「検事総長及び東京地方検察庁検事正の各宣明は、K(コーチャン)らの証言を法律上強制する目的の下に、同人らに対し、我が国において、その証言内容等に関し、将来にわたり公訴を提起しない旨を確約したものであって、これによっていわゆる刑事免責が付与されたものとして、Kらの証言が得られ、本件嘱託尋問調書が作成、送付されるに至ったものと解される。」
「『事実の認定は、証拠による』(刑訴法317条)とされているところ、その証拠は、刑訴法の証拠能力に関する諸規定のほか、『刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑事罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする』(同法1条)刑訴法全体の精神に照らし、事実認定の証拠とすることが許容されるものでなければならない。」
「刑事免責の制度は、自己負罪拒否特権に基づく証言拒否権の行使により犯罪事実の立証に必要な供述を獲得することができないという事態に対処するため、共犯等の関係にある者のうちの一部の者に対して刑事免責を付与することによって自己負罪拒否特権を失わせて供述を強制し、その供述を他の者の有罪を立証する証拠としようとする制度であって、本件証人尋問が嘱託されたアメリカ合衆国においては、一定の許容範囲、手続要件の下に採用され、制定法上確立した制度として機能しているものである。」
「我が国の憲法が、その刑事手続等に関する諸規定に照らし、このような制度の導入を否定しているものとまでは解されないが、刑訴法は、この制度に関する規定を置いていない。この制度は、前記のような合目的的な制度として機能する反面、犯罪に関係のある者の利害に直接関係し、刑事手続上重要な事項に影響を及ぼす制度であるところからすれば、これを採用するかどうかは、これを必要とする事情の有無、公正な刑事手続の観点からの当否、国民の法感情からみて公正感に合致するかどうかなどの事情を慎重に考慮して決定されるべきものであり、これを採用するのであれば、その対象範囲、手続要件、効果等を明文をもって規定すべきものと解される。しかし、我が国の刑訴は、この制度に関する規定を置いていないのであるから、結局、この制度を採用していないものというべきであり、刑事免責を付与して得られた供述を事実認定の証拠とすることは、許容されないものというべきである。」
「このことは、本件のように国際司法共助の過程で右制度を利用して獲得された証拠であっても、全く同様であって、これを別異に解すべき理由はない。」
(最高裁平成7年2月22日大法廷判決 刑集49巻2号1頁)
19年も後になって、自ら保証していた刑事免責の有効性を反故にしたのである。



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# by foresight1974 | 2020-07-11 23:00 | 正義の手続を考える

“インタレスト・オブ・ジャスティス”を巡る、果てのない旅(3)

1976年7月2日、特捜検察は最大の危機に陥った。
場所はアメリカ・ロサンゼルス連邦地裁。ロッキード社社長コーチャンへの嘱託尋問調書を審理していた裁判官ウォーレン・ファーガソンは、堀田のこれまでの努力をぶち壊しにする、とんでもない決定を下したのである。
以下は堀田の回想からの抜粋。

「私は、双方の意見書も、双方の証人も意見も、慎重に読み、慎重に考えたつもりです。」
(略)
「しかし、私は、日本の法制度上、証人らに有効な刑事免責を与えられているかどうかについて、私が、ここで確定的に決めるのは適切ではないという結論に達しました。」
ああ、だめだ!身体中の血が、無限に下へ沈んでいく感覚であった。
(略)
「それで、私は、次のように決定します。本件の証人らは、速やかにジャッジ・チャントリィの主催する嘱託尋問の手続において、非公開で証言すること。」
ええっ!私は、聞き間違えたかと思った。
(略)
「ただし」
と、再び口を切った。
「証人らの証言を録取した証言調書は、日本の最高裁判所が、ルールまたはオーダーによって、証人らが証言した事項については起訴されないことを保証し、その文書が日本政府から当裁判所に提出されるまでは、日本側に引き渡さない。また、この嘱託尋問に立会っているいる日本の検事は、証人尋問で知った事実を、何人に対して漏らしてはならない。」
再び、絶句。
(略)
「これが、私が熟慮して出した結論です。」と言い、みんなを見回したが、誰もが、喜んでいいかどうかわからず、戸惑っていた。
(「壁を破って進め」より)



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# by foresight1974 | 2020-07-04 08:14 | 正義の手続を考える

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


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