安倍は「闘っている」という言葉に酔っているものの、実際には闘っていないのである。 キ文康隆。 この人物は凄い。豊かな知識と鋭い洞察力、高い倫理観と定見を持ち合わせたコラムニストが、他にどれほどいるだろうか。 新潮社の国際政治経済情報誌・Foresightの中で、読む価値のある数少ない連載コラムとなってしまったが、筆の冴えは未だ衰えを知らない。 9月号(8月18日発行)は参院選大敗直後の記事ということになるが、安倍の「躓きの石」が何かについて、過不足なく(←これが凄い!!)喝破しているのである。 コラムの書き出しは、安倍の叔父にあたる西村正雄・元日本興業銀行頭取の言葉から始まる。 「大変残念なことだけれど、晋三は総理の器ではないのだろう」 安倍晋三の父・晋太郎の死後、西村は後見人を自認していたが、晋三が小泉後継候補として路線を継承しようと考えていること、そして事あるごとに祖父・岸信介を引き合いに出すことに強い警戒心を抱いていた。 その思いは2006年7月号の「論座」に託し、晋三へ宛てた手紙の中で「総裁選出馬は政界の流れからやむを得ないにしても、次期総理は時期尚早、小泉亜流は絶対不可、竹中等市場原理主義者や偏狭なナショナリストと絶縁し、もっと経験を積むように」とまで直言していた。 だが、その願いは聞き届けられることなく、9月に晋三は総裁選挙に勝利し、政権の座についた。西村はその報に接することなく、8月に急死していた。 そして、西村の懸念は1年後に的中したのである。 キ文は、安倍晋三と前任者・小泉純一郎との差を「メディアとのコミュニケーション力」に見出している。 小泉純一郎は、天才的なコミュニケーション能力でメディアを使いこなし、国民の圧倒的な支持を得てきた。だが、安倍はその遺産を1年で使い果たしてしまった。 そして、キ文はコラムをこう締めくくった。 西村が「総理としての資質に欠ける」といったのは、安倍晋三という人間に、「二十一世紀の時代を乗り切るだけの『人間観』が欠落しているのではないか」という疑問なのである。そして参院選をめぐる彼の言動は、どうやらそれに対する答えを出してしまったようだ。 「メディアと権力」、「表現の自由と政治」は民主主義社会で暮らす万民にとって、重い問いかけである。 法的権利としての重要性だけでなく、両者の「緊張関係」を読み解くことこそメディア・リテラシーの真髄であることを知り抜いている、秀逸なコラムである。 このコラムが世に出てからほぼ1ヶ月。安倍晋三は退陣を表明した。 ここまで読まれた方はお分かりだろう。安倍晋三は一体何に破れたのか? メディア? 民主党? 世論? いや違う。 「闘う政治家」という、自らの「幻影」に破れたのである。 ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
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