NHKドラマ「ハゲタカ」補論(6)「EBOは新しきバイアウトたりうるか?」

 今回取り上げる用語は、ドラマ最終回で使われた「EBO(Employee Buy-out)」だ。
 正確な解説は、NHKドラマ「ハゲタカ」HPをご参照いただきたい。日本でもこうした買収は広まってきているが、純粋なEBOではない。
 経営陣による企業買収であるMBO(Management Buy-Out)と、従業員へのストック・オプションを組み合わせたMBEOとよばれる形態がほとんどだ。

 ここでは、EBO(MBEO)が破綻企業の従業員を救済する「救世主」になりうるか?について考えていたい。



 まず、EBO可能な企業はどんなものか。
 第一に、そして絶対的に必要と思われるものは、当該事業の独自性だ。独自の商品や技術、サービスを顧客に提供できる実力を備えていなければ、そもそもEBOをやる意味がない。ドラマでは、特級技能士・加藤を中心とするレンズ技術力がそれに当たる。また、グループ外の企業と独自に取引可能な営業力や取引先も備えていなければ、系列から離れるEBOの意義が失われてしまう。これも、ドラマではテクスン社がその役割を果たしている。
 第二に、人的な独立性。日本企業にありがちな「親会社への甘え、依存意識」を払拭することを決断できなければ、EBOをやった意味がない。日本の企業グループでは、「三菱」「日産」といったカンムリがないと、「娘の結婚式で胸を張れない」といった風潮がある。こうした心理的な面まで含めて、独立意識を育てられるかも問題になる。その点、ドラマでは「大空」のカンムリを外し、「あけぼの光学」と名づけたのは妥当な判断だったといえよう。
 第三に、意外に思われるかもしれないが、親会社との健全な関係継続だ。いくらEBOで独立し、独自の企業価値を持っているとしても、新規に取引を開拓することは生易しいことではない。特に、EBOで親会社から離れた場合、「親会社にケツをまくった」などと陰口をたたかれることはいくらでもある。EBOに成功したとしても、親会社との「円満離婚」を強調し、取引先から信頼を得られるように、親会社との取引や人的交流もある程度許容する必要がある。

 こうした条件を満たしたとしても、EBOを実際に始めると、いくつかの難所に出くわす。
 第一に、メイン銀行との関係だ。最近ニュースになった、三越・伊勢丹統合劇のように、業界再編での実質的な仕切り(コンサルタント)をやっているのは銀行などの金融機関である。まず、このコンサルタント・フィーがかなり高い。掛け率は0.5%程度が相場と思われるが、それでも100億円クラスのディールで5千万円。当該年度の利益の10%程度が食われてしまうのではないだろうか。
 第二に、実際に資金計画が動き出した後の株主構成の問題だ。買収ファンドが、当該業界を専門的に知っていたら問題はないが、日本の場合、往々にして買収ファンドが当該業界を知らないでやっている例がある。結果として、買収ファンドが投資を回収できず、転売された例も散見される。また、EBOの後、事業展開を急ごうとしても株主構成の比率が邪魔になって、思うように資金調達ができない、といった例もみられている。
 第三に、こうした株主に対する説明責任の問題もある。MBOではないが、三洋電機の再建問題で大きな争点になったのは、支援する金融機関の温度差の問題があった。邦銀系の銀行団が長期的な視野で再建を考えていたのに対し、短期の投資資金回収を目指した外資系ファンドと意見対立が表面化。その争いの中で、取引先の整理問題などが発表前にマスコミに流出するなど、経営が混乱し、結果として、創業者一族などの役員が退陣することになった。

 ドラマでも描かれているが、EBOといっても従業員全員が資金を出し合っても、実際にはごくわずかな割合を占めるに過ぎず、経営的には象徴的な意味合いに止まる。「従業員を大切にした、新しいバイアウト」という美談ではなく、難所を縫うように船を漕ぐような、微妙な舵さばきが要求されるのである。
 残念ながら、こうした舵さばきが可能な経営者は、日本にはほとんどいない。
 結局、日本に広がったバイアウトは、上場していた企業が、IRに関する労力を削減するという後ろ向きな理由による「上場廃止型MBO」ばかりになった。市場の審判が万能であるというつもりはないが、ドラマに描かれるような美しいバイアウトが出てくるようになるには、まだまだ時間がかかると思われる。

※追記:
9月22日になって、日本でも本格的なEBOが実施されたことが判明した。
a href="http://news.ameba.jp/2007/09/7263.php" target="_blank">「ファイザーをリストラされた研究員 立ち上がる」(アメーバニュース)<

大規模なリストラを実施したファイザーの日本法人を解雇された80人が、EBOにより独立して新しい事業を立ち上げた。
この計画にはファイザー本体も間接的に関与しているという。
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by foresight1974 | 2007-08-25 16:43 | 企業統治の公共精神

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