保守の再構築、リベラリズム、そして参院選のあとに来るもの(前編)

 今回の記事では、mixiコミュニティ「民主社会主義/社民主義の現代」での議論も踏まえて、二つのキーワードから参院選の総括を行いたい。

1、 保守の再構築

 参院選の後も、安倍晋三は「惨敗の責任は私にある」としつつ、「基本路線については多くの国民のみなさまに理解していただいている」と強弁している。「基本路線」とは憲法改正に象徴される「戦後保守主義の再構築」「戦後レジームからの脱却」「美しい国」といった陳腐な理念を指す。
 しかし、この強弁は次の二つの点から簡単に否定できる。




 一つ目の点は、安倍晋三の支持基盤であるはずの自民支持者の「自民離れ」だ。
 日本経済新聞が参院選の公示前から継続してネットによる選挙情勢分析を行っているが、そこに注目すべき現象がみられた。自民党支持者の民主党への支持乗り換えだ。
 公示前から自民支持者の「流出」が始まり、自民支持者の10%もの人が民主党支持へ態度を変更している。公示後もこの流れは一貫しており、最終的には自民党支持者の実に25%が民主党に投票したのである。
 これは何を意味するだろうか?安倍晋三の「基本路線」なるものが足元の自民党支持者たちに理解されていなかった、あるいは安倍本人が考えているより重要であると考えられていなかったからこそ、民主党に乗り換えたのではないだろうか?
 二つ目の点は、有権者の出口調査にある。共同通信が実施した世論調査において、「有権者が何を最も重視して投票したか?」という質問に対し、年金・・・26.3%、政治とカネ・・・18.5%、格差・・・15.3%、景気・・・8.0%と続き、安倍晋三の基本路線についての関心はみられていない。以下、教育・・・7.7%、憲法・・・7.6%、税制・・・7.0%と続き、外交や安全保障にいたっては3.9%といった有様である。(7月30日~31日)※
 安倍晋三の首相続投を支持する人々はこの点、「参院選では年金問題や政治とカネについて自民党にお灸がすえられた」と弁解するのであるが、それは世論調査の解釈の歪曲である。
 防衛省設置法、教育基本法改正、国民投票法と、安倍晋三はこの1年、まさに基本路線に関する法案を矢継ぎ早に成立させ、その実績を誇示してきたのである。そうした実績を有権者は評価していないからこそ、投票において重視していないのである。以前の記事でも指摘したとおり、まさにこの「世間ズレ」こそが、安倍晋三という男が世間から見放されている証左ではないか。
 
 それでは、なぜ見放される結果になったのだろうか?それは、皮肉にも安倍自身が謳って来た「戦後保守主義の再構築」にあるのではないだろうか。
 保守主義の思想的中核は、既存(現在)の思想や制度に対する尊重の姿勢である。そして、その政策は本来、きわめて穏健的で社会変化を受容しつつも、既存の思想や制度をなるべく生かす形で存続させていこうという、漸進的な社会改良主義であるといえる。自民党は、多くの批判にさらされながらも政権政党として生き延びてきたのは、まさにこのプラグマティズムな政治感覚に鋭敏だったからである。
 だが、安倍晋三の「戦後保守主義の再構築」は、そうした路線とは異質な発想を持ち込んでしまった。ゴーストライターだか自筆だかはあえて問わないでおくが、「美しい国へ」に描かれた日本像は、戦前への復古主義、ノスタルジーであり、ご都合主義的に過去を拾い上げて、今の世の中を憂いても、自民党支持の多数を構成していた「生活保守主義」とは相容れないのである。
 それに対し、一人区を、ヘリコプターを駆使してまで回った小沢一郎は、まさに「生活保守主義」にマッチしたイメージであった。「国民の生活が第一」というキャッチフレーズの真贋は、これからの行動で判断せざるを得ないが、少なくとも有権者の目には、安倍晋三が「美しい国」連呼するより反響は大きかったと推測される。安倍晋三の広報官を自認する世耕弘成が選挙後に、「(街頭演説で)私も美しい国とは言えなかった」と安倍を諌めたエピソードは、まさにそうした有権者の空気を代弁していたものとして興味深い。
 今後、安倍晋三が続投しようと、その政治的価値は非常に低くなった。朝日新聞と東京大学の合同調査にあるとおり、参議院で改憲派が3分の1を大きく割り込み、憲法審査会の設置もままならない。集団的自衛権にいたっては公明党が公然と反対を表明している。まさに四面楚歌の状況で、打開できる選択肢は内閣改造くらいのものしかない。安倍続投を4割の国民が支持しているといわれているが、その理由たるや「他に代わる人がいない」という、同じ主権者として情けなくなってくるような回答がトップになっている。
 安倍晋三が政治的に蘇生するかどうかはともかく、「保守の再構築」という思想は大きな蹉跌を味わった。これが総括の第一である。

※なお、この点の世論調査については、読売新聞の世論調査と比較すると興味深い。読売新聞は、「今回の参議院選挙で、投票する候補者や政党を決めるとき、とくに重視したい政策や争点を、9つ読みあげますので、いくつでも選んで下さい。」という質問で有権者の関心を探っている(7月24日~26日)。これによれば、年金・・・65.3%と回答が突出しており、以下、消費税問題・・・43.8%、教育・・・38.4%、政治とカネ・・・36.2%、格差問題・・・30.5%、公務員制度改革・・・29.0%、景気・・・28.8%、外交や安全保障・・・23.4%、憲法改正・・・23.3%となっている。

 2、民主党の勝利?

 では、安倍自民党が大敗した今回の選挙結果は、民主党が勝利したといえるのだろうか。この点はなかなか評価の分かれる難しい問題であるといえる。簡単にいえば、各報道機関の世論調査によれば、民意は「自民党の批判票として民主党に入れたが、民主党を支持しているわけではない」といったところだからである。
 ここで、考えておかなければならないことは、前回の衆院選との異同である。郵政民営化法案が参議院で否決され、小泉純一郎が決然と衆院を解散した前回の衆院選では、「郵政民営化」という明確な争点が設定され、自民党が民主党や造反議員たちを圧倒した。今回も、年金不信による逆風や格差問題、閣僚の不祥事という争点が民主党によって設定され、極めて単純な争点が選挙の帰趨を決した。多様な政治的問題を投票箱の一票に集約しなければならない選挙において、こうした煽り的手法はポピュリズム的だといえる。
 だが、各報道機関の世論調査については、前回の衆院選と重要な違いある。前回の衆院選では「自民党が勝ちすぎた」と回答した有権者が圧倒的であったのに対し、今回の選挙結果については満足していると回答している有権者が圧倒的だったのである。つまり、民主党が「勝ちすぎた」=「お灸が効きすぎた」とは考えていない、ということである。この点は、民主党という政党が自民党の代替的政党として認知されていることを示唆している。
 しかし、選挙後の世論調査において、勝因は「敵失」であるとの回答は圧倒的であり、また、「民主党に期待して投票した」という積極的な支持もごく少数に止まる。お灸をすえたという民意はさほど外れているようには思われない。
 党勢のなさも相変わらずだ。参院選と同日に行われた熊本3区の補欠選挙は、松岡利勝の自殺事件を受けて行われたものだが、保守系が分裂した選挙にも関わらず、民主党候補は、いずれの保守系候補からもダブルスコアの大差で敗れている。
 ただ、こうした冷ややかな見方にも距離をおいてみる必要がある。なぜなら、自民党が圧倒的な議席を誇っていた時期でも、自民党を支持する理由は、自民党を積極的に支持する理由より、「他に入れる政党がない」といった消極的なものがかなり多かったからである。
 民主主義社会が成熟し、各政党に対する批判が厳しくなってくると、有権者の選択は「どこを支持するべきか」というより「どこを支持するべきでないか(よりましか)」といった方向に変わっていかざるをえない。民主党が積極的に支持されていないのは、党勢のなさばかりが原因ではなく、よりましな選択肢として民主党が選択されているのである。この点は、民主主義社会の健全さを示しているといえるだろう。
 特に、いわゆる無党派層の民主党支持は確固たるものになってきた。今回の選挙において無党派の支持は民主党に集中したことが分かっているが、前回の衆院選においても、無党派の支持政党は民主党がトップである。有権者は明らかに民主党と自民党を「同列」に扱いはじめている。そのことが民主党にとっていいことか悪いことかについては、後編で取り上げたい。

 皮肉にも安倍が弁解したとおり、「安倍か小沢か」といった選択肢で有権者は投票したのではない。だが、倉田真由美が日経にコメントしたように、少なくとも「政権交代があってもいいと考えた」とは思われる。それは消極的にせよ、民主党も政権担当能力がある政党として認知されている証拠である。(つづく)
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by foresight1974 | 2007-08-11 12:17 | サイレント政治・社会評論

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