選挙情勢分析の意義について考える

 私が敬愛するブロガー・ツナミン氏は、「憲法問題を考えるBlog」7月27日付の記事において、選挙予測報道について以下のように述べられている。

 「マスコミは例によって、選挙予想報道ばかりやっているが、私は選挙結果の予想になど全く関心がない。というより、すべての選挙予想報道は有権者の投票行動に影響を及ぼすものであるから、それ自体、政治の民主過程を歪めるもので、本来許されないと私は思う。」


実は、私はこの見解とは全く異なるので以下に述べておきたい。





 AERA7月16日号に自身の選挙予想を掲載した「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」でおなじみの公認会計士・山田真哉は、同誌のインタビューに「民主主義の一つのシステムである選挙は、どんなに工夫しても民意の反映には限界がある。票数を予想し、結果が出ると、民主主義の果てを見る思いがする。」と語っているが、私も全く同感である。

 考えて見られたい。
 なぜ、現実の選挙運動では選挙カーが立候補者の名前を連呼しているばかりで、政策の主張を行わないのか。なぜ、参議院議員歴20年以上のベテランの政治実績より、「姫の虎退治」が騒がれるのか、を。 
 これは、官僚たちが定めた公職選挙法によって、選挙前しかワーワー騒げないシステムになっているからである。日本の選挙制度では、多様な論点に対し公示日から投票日までの期間は非常に短く、被選挙人が自己の政治的主張を有権者に浸透させることは物理的に不可能な状況に置かれている。
 問題はさらに深くなる。選挙制度の最大の弱点は、多様な政治的論点に対し、有権者の意思表示が極端に単純化されてしまう、ということである。
 つまり、実際の投票においては、多様な政治的主張を「選挙区の候補者への一票」および「比例代表における政党名・個人名」に集約せざるをえず、結果として、有権者の意思表示が極端に単純化されてしまうのだ。
 こうした状況下では、選挙人の投票行動は一定的にパターン化され、予測することが可能になる。

 選挙の出口調査の情勢分析でも、まず上げられるのが知名度、次に自党支持者の票固め、組織票の動き、そしてやっと政策のウケ具合という状態なのである。
 こうして、メディアによる選挙分析はIT技術の普及とあいまって年々精緻さを増している。そして、それに基づく予想はだんだんと外れにくくなっているのだ。
 こうした予測は、報道機関や研究機関に限られない。有名なのは自民党の選挙分析で、一部週刊誌に漏れた「7勝22敗」という予測は、結果的にほぼ当たってしまった。自民党の場合、サンプル数は全国紙の倍を取っており、もちろん自民党のそれとは分からないように工夫されているという。
 
 では、選挙分析およびそれに基づく予想の最大の意義は何であろうか。
 それは、選挙制度の限界を明らかにするということである。
 もちろん選挙予測報道は、選挙制度を劇場化し、有権者の判断をポピュリズム的性向に誘引する欠点はある。選挙前にはさまざまなスキャンダル合戦などで、各勢力やメディアが様々なバイアスをかけようとしている。
 だが、何かの実験のように、まるで純粋培養のように有権者の投票行動を保護することは不可能である。
 そもそも、民主主義というのは完全無欠な理想の政治制度ではない。最近の憲法学の主流は、長谷部恭男に代表されるように、民主主義的意思決定の限界を明らかにすることによって、多数者の支配に侵されることのない、少数者の権利擁護(立憲主義の一部として説明される)を確立することを志向している。
 山田が言うように選挙制度は民意を忠実に反映するものではありえない。そもそも、間接民主制は、多様な意見を投票行動によって集約する機能ももっているので、どこかで切り捨てられる民意が出てくるし、バイアスによる歪みも生じる。たかが得票率4割の民主党が過半数に迫らんとする議席を確保している時点で、民意は完全には反映されていない。
 だからこそ、このようなときのために、「メディア・リテラシー」を啓発し、有権者は広く学ばなければならないのではないだろうか。
 そして一方では、こうした分析の成果として、投票時間の延長や期日前投票の緩和など、様々な投票率向上策も実施されてきた。こうした「正」の部分も見逃してはならないと思う。

 私が思うに、ツナミン氏は民主主義国家の選挙制度の効能をいささか過大評価しているし、有権者のメディア・リテラシーを過小評価しているきらいがあるように思われる。
 安倍続投を国民の4割が支持していると思われる各報道機関の世論調査にかなり驚かれているようであるが、私は驚かなかった。だが、安倍晋三という男に国民が「幻滅」するときは、すぐそこまで迫っている。
 どうか頭を冷やされて、願わくばブログの題名を元に戻されることを。
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by foresight1974 | 2007-08-04 10:28 | サイレント政治・社会評論

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