参院選:安倍政権の何を糾すべきなのか(1)

 北海道大学公共政策大学院准教授の中島岳史は、専門のヒンドゥー・ナショナリズム研究だけではなく、現在の日本社会にも鋭い問題提起を投げかけている。

 彼のブログ「コールタールの地平の上で」では、7月1日の記事「参議院選挙の争点」の中で、以下の2つをしっかり問うべきだと述べている。

1、イラク戦争の総括
2、格差問題と新自由主義政策の是非

 「表層的で薄っぺらなことばを連呼する政治家に、憲法改正の発議が確実な6年間の政治を任せてはいけません。有権者もそのときの「気分」ではなく、地に足の着いた「思考」によって投票に挑むべきです。」という主張には大いに共感する。

 ささやかながら、この呼びかけにお応えして、私がこの選挙にどのような「思考」で投票に挑もうと考えているか、書き記しておきたい。



 とはいうものの、今回に限っては、私の思考は非常に政治的である。というのも、私の念頭にあるのは、「このまま安倍政権が続いいたら大変なことになる」という危機感があるのだ。
 では、何がマズイのか?その危機感を3つに分けて話したい。

 第一に感じる危機感は、憲法や人権、民主主義といった政治哲学の根本部分の「幼稚さ」だ。
 例えば、安倍晋三は、その著書「美しい国へ」の中で、国家は抑圧装置かという点に関し、次のように書いている。

 国家権力は抑圧装置であり、国民はそこから解き放たれなければ本当の自由を得たことにはならない、と国家と国民を対立した概念でとらえる人がいる。
 しかし、人は他人を無視し、自ら欲するまま、自由にふるまうことが可能だろうか。そこには、すべての要求が敵対し、からみあう無秩序社会──ジャングルの中の自由があるだけだ。そうしないために、近代社会は共同体のルール、すなわち法を決めた。放埒な自由ではなく、責任をともなう自由を選んだのである。
 ルワンダ共和国では、一九六二年の独立前からフツ族とツチ族が対立し、独立後、フツ族が政権の座にあったときは、ツチ族にとっては国家は抑圧装置、いや虐殺装置でしかなかった。かつてのユダヤ人にとってのナチスドイツも、そしてかつて多くの共産主義国も、その国民にとっては抑圧装置だった。
 安全保障について考える、つまり日本を守るということは、とりもなおさず、その体制の基盤である自由と民主主義を守ることである。外国では少なくともそう考える。ところが日本では、安全保障をしっかりやろうという議論をすると、なぜか、それは軍国主義につながり、自由と民主主義を破壊するという倒錯した考えになるのである。
 しかし、少し考えればわかることだが、先にあげた独裁国家では、自由と民主主義が否定され、報道の自由が認められていない。損zないするのは、一部の権力者が支配する閉ざされた政府だ。問題なのはその統治のかたちであって、国家というシステムではないのである。


 極端に単純化された「論敵(=国家は抑圧装置と主張する人)」を想定し、その反証にナチスドイツやルワンダといった、破滅的事態に至った国家という、病理的で極端な事例を挙げている。
 文章の後半部分もひどい。安全保障をしっかりやろうという議論→軍国主義→自由と民主主義破壊という「倒錯した考えの持ち主」なる人を想定し、これをまた先の事例で反証しつつ、「問題なのはその統治のかたちであって、国家というシステムではない」という、摩訶不思議な結論に至っている。
 一見、主張は一貫しているようにもみえる。が、本人は、優れたロジックでも披露したつもりなのかもしれないが、上記の文章の破綻箇所は、文章のロジックではなく、その「前提」である。
 極端で病理的ともいえる主張を「敵」と想定し、極端な事例で反証したところで、何の効力もなく、単なる「脳内シャドウボクシング」にすぎない。なぜなら、安倍が想定した「敵」は、そんな短絡的な意見の持ち主ではないからである。
 
 なぜ、相手の意見をここまで大きく「誤認」することができるかは(3)あたりに書くとして、私がここで強く指摘したいのは、相手は「極論の持ち主」というレッテルを貼り、短絡的なロジックで非難しさえすれば、自分の主張の優位性が論証されたと思い込む、発想の幼稚さである。
 記号論理学では初歩的で当たり前すぎる話であるが、Aという主張を否定しえたからといって、自説であるBが優れていると「証明」されたことにはならない。自説Bが有効であるとその必要条件と十分条件を検証しなければならない。
 上記の安倍の文章は、オメデタイことにその点がすっかり抜け落ちている。あるいは、彼の脳内妄想の「美しい国ニッポン」は、自由と民主主義が十分に保障されていると勝手に思い込んでいるのかもしれないが、それとてアメリカから「押し付け?」られた後のすったもんだの末に、やっと定着しかけたころであって、それまではルワンダを笑えぬほど貧しく、ナチスドイツとは同盟国であったことも思い出していただきたいものである。

(2)につづく
[PR]
by foresight1974 | 2007-07-24 02:03 | サイレント政治・社会評論

Let's think about day-to-day topics.


by foresight1974