米民主党は、なぜ中間選挙の「勝利」を恐れているのか

以下の投稿は、mixi内コミュニティ「民主社会主義/社民主義の現代」に寄稿したものです。
(以下投稿文)



はじめまして。
にっし~さんのご紹介でこのトピに参加いたします。

さて、来月はアメリカは中間選挙です。
イラク戦争やハリケーン・カトリーナへの対応、CIAの情報漏えい疑惑など、ブッシュ政権・共和党への攻撃材料に事欠かないはずの民主党ですが、ここに来てどうも選挙戦の雲行きが怪しいようです。

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米中間選挙前に共和党回復の兆し…大統領支持率上向き(読売新聞2006年9月29日)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060929id28.htm

 【ワシントン=五十嵐文】11月7日投開票の米中間選挙で劣勢に立たされている与党・共和党が、最近、支持回復の兆しをみせている。

 情勢悪化で抜き差しならない「イラク政策」と、「対テロ戦争」の成果を区別して強調するブッシュ政権の戦術が功を奏し、低迷を続ける大統領支持率が上向いてきたことが追い風となっている。共和党が上下両院の過半数を維持できるとの見方も出てきた。

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「ペロシ下院議長」―近頃、「警鐘」として共和党議員が使うフレーズだそうです。
民主党のリベラルな女性闘士、ペロシが下院議長になれば、「リベラル派が跋扈し、国が危うくなる」と共和党が選挙民の警戒心を煽る戦術に出ているというわけです。
「リベラル」という言葉がネガティブ・キャンペーンに利用されること自体、アメリカの社会病理の深さを垣間見る思いがします。

民主党の方にも事情はあります。
実は、民主党は中間選挙に勝利することを恐れているのです。

「06年の中間選挙は多数党一歩手前という状況まで攻め入り、勝利に一歩手が届かないという結果が民主党にとって最も望ましい。」
中山俊宏・津田塾大学教授に、民主党周辺の政策系シンクタンクのスタッフが内々に述べたそうです。
同じ情報を、会田弘継・共同通信編集委員も手に入れているので、ほぼ確実な情報でしょう。

06年の中間選挙に勝利し、リベラル派が多数を占めた議会とホワイトハウスの共和党が対立した場合、その結果を民主党が引き受けるという「損な状況」を恐れているのです。
「民主党の退潮ぶりを象徴するような話ではないだろうか。勝利して、国をリードすることを恐れているような気配だ。」
会田氏はそうレポートに書いています。

そもそも、なぜここまでリベラル派は凋落してしまったのでしょうか。
会田氏は後掲の連載で、リベラル派で最も影響のあった思想家・ロールズを題材に、次のように解き明かしています。

フランクリン・ルーズベルトから始まるニューディール・リベラリズムの全盛期、民主党は長期政権を築き上げます。ロールズは、アカデミックな理論家というイメージが強いかもしれませんが、実際には、この民主党が長期政権を担っていく中で、現実との対話から思想を発展させていきます。それが1958年の「公正としての正義」、そして1971年の「正義論」への結実につながっていくのです。

しかし、ニューディール・リベラリズムはまさにその「正義論」の直後から没落を始めます。対外的には、ベトナム戦争で露呈した民主党の「行動的な正義」の欺瞞、そして、国内ではリベラリズムの名の下の諸政策が実施された結果、生み出されたのは「偉大な社会」ではなく、人種や性、その他のグループごとの新しい、複雑なかたちの対立が始まるのです。

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 例えば、差別撤廃がもたらした大学入学などでの人種別人数割当が、かえって人種間の摩擦による離反を生む現象が起きた。そうした離反をさらに煽ったのが、人種中心主義(エスノセントリック)な教育だ。過去の差別への反動として黒人意識を高めようと、西欧白人文明はアフリカに起源を持つというような歪んだ歴史認識まで黒人学生に教え込む授業が出てきた。女性も含めた各マイノリティが、そうした自己グループ中心の「思想」をつくり出し、他グループに譲ろうとしない。その結果、文化多元主義を可能にする「自由、民主主義、人権」といった啓蒙主義の理念そのものまで、「人種差別的、性差別的な西欧白人文化」のものだとして否定されそうになった。
(後掲:会田氏のレポートより)
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私事で恐縮ですが、私はかつて学校で、アメリカは「人種のるつぼ」と教えられました。
しかし、最近では溶けて一緒になるというよりも人々は各々のかかわる文化や伝統の要素を残したまま混じり合っているので「民族のサラダボール」と言ったほうが正確だという考えが強いそうですね。

この間、ロールズは決して手をこまねいていたわけではありません。
1993年に著した「政治的リベラリズム」では、この新しい対立を見据え「思想・信条の異なる共存」を目指した主張を展開していきます。

しかし、アメリカは疲れてしまいました。そうした気分は、この時代に「ダーティ・ハリー」というマッチョ映画が代弁していると思います。

そして、1980年のレーガンに始まる保守の復権が始まります。分裂した社会を強固な愛国心で癒し、普遍的なアメリカの理念を全世界に押し広めようとする―。
この「新しい保守」たちの挑戦と(そして、たぶん挫折)は、ジェームズ・マンの「ウルカヌスの群像」が詳細に明らかにしていきます。

一方、民主党は「偉大な社会」建設にリンドン・ジョンソンが挫折して意向、安全保障問題における支持を急速に失っていきます。
大きな衝撃はベトナム戦争の欺瞞からもたらされました。その非道徳性を世界中から非難されて以降、軍事力ではなく経済や政治の力を駆使して世界と協調しようとする、そうした理想主義者が党内で力を持っていきます。
しかし、そうした連帯は美しい響きを持つものの、国民に「はっきりした果実」を見せることが出来ませんでした。
共和党はしっかり国の安全を守ってくれるが民主党では弱くて駄目だ―。というイメージが刷り込まれていった。
民主党系の論客、イヴォ・ダールダーとジェームズ・リンゼーはリポートにそう書いています。

この点に関し、ロールズは1999年に「万民の法」という著書で、市民社会が国際政治で重要な役割を果たすことを説いています。限定的な条件を留保しながら、「正義の戦争」を容認するロールズの主張のラディカルさは、あまり書評に取り上げられていないようですが、彼は単なる平和主義者ではなく、むしろ「ネオコン的気分」を持つ有権者にシンパシーを感じてもらうような主張を展開していきます。
しかし、その主張が十分浸透する前に、イラク戦争が始まってしまい、そして今、アメリカはその「ロールズの答えの先」を見出せないでいます。
ロールズも、2002年に死去しました。

民主党は何をするべきなのでしょうか?中山氏は「新たな公共哲学」が必要だと述べています。そして、ダールダーとリンゼーは、「(共和党の)どこが間違っているかを指摘するだけでは民主党は勝てない。有権者はどうしたら間違いを正すことができるのか、説得力のあるビジョンを知りたがっている」と指摘しています。

米国民主党、そしてリベラリズムの凋落は、今の日本の社会状況をみても十分に示唆に富んでいると思います。

日本に必要なのは、「丸山真男を継ぐ者」、そして「ロールズを啓蒙する者」ではないでしょうか。
この点、多くの欠点を認めるとしても、小熊英二(「民主と愛国」)、中島岳史(「ナショナリズムと宗教」)、長谷部恭男(「比較不能な価値の迷路」)、愛敬浩二(「改憲問題」)らにまだ希望を託すことができるでしょう。

<参考文献>
「なぜ米民主党は外交・安保で信頼されないのか」イヴォ・ダールダー/ジェームズ・リンゼー(Foresight2005年5月号 新潮社)
「米民主党は新たな「公共哲学」を語れるか」中山俊宏(Foresight2006年6月号 新潮社)
「共和党が警戒する「ペロシ下院議長」誕生の可能性」アレクシス・メンディンガー(Foresight2006年7月号 新潮社)
「追跡・アメリカの思想家たち第17回/民主党リベラルを支えたロールズの「正義論」」会田弘継(Foresight2006年9月号 新潮社)
「追跡・アメリカの思想家たち第18回/ロールズが問うた「思想・信条の異なる共存」」会田弘継(Foresight2006年10月号 新潮社)
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by foresight1974 | 2006-10-01 23:40 | サイレント政治・社会評論

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