経済報道解読ノートレビュー「ようやく「家計革命」が始まった」

 06年5月号「Foresight」に寄稿されたキ文康隆(キは漢字の「七」を漢字の「森」状に配したもの)「経済報道解読ノート」は、ケインズ経済学の視点から、格差社会と日銀の量的緩和政策の解除のニュースを解き明かしたレポートである。

 キ文が注目したのは、「家計の配当所得、利子所得を超す」という日本経済新聞とニッキンが伝えたニュースだった。 



 もちろん、キ文は「貯蓄から投資へ」などというステレオタイプ的な報道など鵜呑みにはしない。

 逆転劇を生んだ圧倒的な要因は、究極の低金利政策で家計の利子所得が激減したことだ。(中略)この一目瞭然ともいえる家計資産の国民経済レベルの歪みこそ、バブル崩壊から十五年にわたって、国家が、家計を通じて国民に強いた「痛み」の集積である。


 そこで、3月に日銀が打ち出した量的緩和政策の解除という決断を「健全な金融政策の復帰」という視点のほかに、「彼(福井日銀総裁)の決断は、家計資産に「資本」の役割を担ってもらうには避けて通ることのできない措置である。」という視点を提示できるのである。

 この思想を下支えするのは、ケインズ経済学に関する正確な理解である。

 社会を、投資家階級、企業家階級、労働者階級の三者に分類するのが便利であろう。これらの階級は重複し、同じ個人が給与を得、商取引をし、投資をすることもありうる。(ケインズ「貨幣改革論」1923年)


 コラムの冒頭で引用したケインズの考えを的確に日本経済の現状に適用していくことが、今回のキ文の「刀の冴え」である。

 日本経済が「失われた十年」を彷徨していた間、ケインズ経済学は悪魔のように叩かれた。だが、その多くが誤断と曲解に満ちたものであった。

 富の再配分に関して、秀逸な視点を提示したケインズ経済学の「優等生」たる日本社会において、中流階級がなぜ「豊かさ」を実感できなかったか。昨今かまびすしい「格差社会」論をめぐる混乱も、この問いを置き忘れている。

 キ文の指摘は正確だ。

 日本は公共事業を通じて行う有効需要政策の側面ではケインズスクールの優等生だったかもしれないが、家計と企業社会の関係というケインズ経済学の優れたもう一つの側面の理解、実践においては、劣等生だった。
 

 うっぷん晴らしの格差社会論に飽きが来た方々に、是非ご一読願いたい論考である。
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by foresight1974 | 2006-04-23 15:40 | サイレント政治・社会評論

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