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堀江貴文「逮捕」は必要だったのか!?

 私が大学時代、刑事訴訟法の講義で最も驚いた教えがある。
 それは、「取調目的で逮捕することは違法」ということだった。現実社会では、逮捕された被疑者が自供したかどうかがいつも問題にされているだけに、最初にこれを教わったときは、また法の理想と現実が乖離している事実に嘆息したものである。

 そして今、堀江貴文逮捕の報に接して、改めてこの疑問を投げかけてみたいと思う。



 刑事訴訟法規則143条の3では、被疑者の逮捕が認められるのは、「逮捕」理由の罪障隠滅の場合と逃亡の恐れがあるためであり、この要件に該当しないことが明らかに認められるときは逮捕状の請求は却下することが義務付けられている。
 しかし、現実の司法において、検察官や司法警察職員は事実上、犯罪事実の取調を目的として逮捕状を取っており、この条文は形骸化している。そればかりか、余罪の追及のために、逮捕・拘留一回性の原則を無視して、ある罪状による逮捕・拘留の後、別罪で再逮捕する実務慣行すら定着している。
 
 ライブドア強制捜査による捜索・差押は網羅的に行われており、現実的に罪証隠滅の恐れがあるとは考えにくい。また、今までの堀江貴文の言動、任意同行に応じている事実からしても逃亡の恐れがあるとも考えにくい。
 それにも関わらず裁判所の逮捕状は発布された。裁判所は発布にあたり、被疑者に出頭を求め陳述を聞くことも出来るが、そのような措置を取った裁判官を寡聞にして知らない。多くの裁判官は、その権限の存在すら忘れているのではないだろうか。

 おそらく、事件の重大性からすれば、今回の堀江貴文の逮捕・拘留は1ヶ月以上に及ぶと思われる。刑事訴訟法は20日以内に、検察官に起訴するかどうか決定することを要求しており、その後は原則として被疑者を保釈しなければならないが、被告人(起訴後の被疑者)を起訴後も拘留する実務慣行も長年定着している。
 こうして、弁護側は絶望的なハンデの下で裁判を闘わなければならない。その上、この溝をを少しでも埋めようという策は、「弁護人の裁判引き伸ばし」なる名目で、産経新聞などの自称愛国メディアから叩かれる構図となっている。刑事弁護人は、大変なプレッシャーと勇気を必要とする仕事なのである。
 
 ライブドアほどの企業でも、圧倒的に強大な権限を持つ捜査当局と対等に闘うことは困難である。これまた洪水のようなメディアと権力による批判の中で、テレビの前だけでふてぶてしい被疑者らが、どれだけの勇気を振り絞れるというのだろうか?
 
 もし、主権者である私たちが事件の真実を求めるとするならば、彼らの「自供」だけに耳を傾けてはならない。それを強要する人々の曲々しさにも見抜いていなければならない。
by foresight1974 | 2006-01-25 00:25 | 正義の手続を考える

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974