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「債権法改正」への注文

「債権法」抜本改正へ、ITや国際化に対応・法務省(日本経済新聞2006年1月4日朝刊)

いよいよ100年ぶりの抜本改正となるようであるが、良い機会なので是非注文したい。

第一に、立法当時理解が不十分だったと思われる規定の改正を十分にしていただきたい。例えば、危険負担に関する534条~536条に関しては、現在解釈上の修正が図られているところであるが、危険負担は債務者主義が原則であることを明確にし、例外規定を個別に定めることが望ましいと思われる。
また、受領遅滞に関する413条の規定や、契約解除の規定(545条)に関しても、判例や学説上の対立があるところでは、その立法趣旨を明らかにして、対立を解消する努力が望まれる。

第二に、「契約自由の原則」の修正と戦前の残滓ともいえる規定の改正である。例えば、賃貸借の解除に関する612条の規定は、司法試験受験生にはつとに有名な「信頼関係破壊の法理」による修正が図られている。また、賃借人の保護は現在、借地借家法でも果たされているが、未だ十分とはいえない。
たとえば最近、敷金返還に関する最高裁の新しい判例も出た。契約終了時に頻発する敷金をめぐるトラブルの解消のため、より具体的な規定の整備が望ましいところである。
また、賃貸借や請負、雇傭に関する規定はいずれも戦前の残滓ともいえる規定が残っていたり、あるいは形骸化した「契約自由の原則」がかえって社会的弱者の保護の妨げになっている箇所も少なくない。いずれも戦後の特別立法により大幅な修正が図られたところであるが、一般法である民法から、こうした規定を抜本的に見直すべきであろう。

第三に、いわゆる多数当事者の債権関係の処理における人的担保、つまり保証や連帯保証に関わる規定の見直しである。
欧米の立法例にはみられなくなった苛烈な保証の拘束は、90年代に不良債権の迅速な処理を困難にしたり、ローン債務者や零細企業の経営者などの経済力再生に大きな障害をもたらした。親類縁者が連帯保証人になるなどした例が多いため、あまりに過重な債務負担がかえって経済的困窮を深め、破産や民事再生を難しくした場合も多い。
欧米では、事業やローン返済が困難になった場合、物的担保の清算のみで債務を処理する場合が多い。迅速な不良債権処理と債務者の健全な再生の確保という視点からは、こうした立法への転換を検討してもいいのではないだろうか。

いずれも非常に地味な分野への言及となったが、法務省の民法改正委員会の座長には、積極的な少数説の展開で知られる内田東大教授が就かれるという。「IT」などという流行の言葉に流されることのない、実りある議論を期待したい。
by foresight1974 | 2006-01-06 00:44 | ビジネス法務

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974