ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(9)「新株予約権発行の法的問題(1)」

 いよいよ、今回からニッポン放送がとった敵対的買収の防衛策、新株予約権の発行について論じていきたい。

 ニッポン放送は、2月23日の取締役会において、大量の新株予約権をフジテレビに発行する決議をした。その数は普通株4270万株という膨大なもので、発行済株式総数の1.44倍にものぼった。この時点で、ライブドアは42%の持ち株比率を有していたが、予約権が行使された場合17%にまで引き下げられてしまう。
 これに対し、ライブドアは翌24日、本件新株予約権発行の差止めの仮処分を申し立てた。

 本件について、法曹界の「予想」は真二つに分かれた。
 連載にあたり、各種報道をもう一度見直してみたが、「べき論」でいうならばライブドアを支持する意見が多かったように思う。しかしながら、裁判所がどのように判断するかという「予想」に関して、自信をもって予想した法律家はほとんどいなかった。
 ネット上の友人の間でも意見が分かれた。私は「ライブドアにせめて1勝くらいして欲しい」という希望を述べたのに対し、金融機関に勤める友人は「全敗」を断言。知合いの弁護士も「全敗」。ライブドアの「全勝」を予想した者は誰もいなかった。
 なぜか。それは裁判所の判断の仕方が純粋な法理論の判断というよりは、具体的妥当性のある解決策を設定し、そこから「逆算」して法律論が組み立てられるという現実があるからである。
 ライブドアの資金調達スキームは当時の法律では合法であることは明らかであった。だが、そうしたライブドアの「卑怯な」やり方を裁判所が後押しするような法律判断を示すかどうか、自信が持てなかったのである。



 この問題は、現行商法280条ノ10「著しく不公正な方法による株式の発行」として差止めの対象となるか、という点が議論されてきた。
 著名な判例は「忠実屋・いなげや事件」(東京地裁決定平成元年7月25日)がある。昭和62年、不動産会社「秀和」による株買い占めに対抗して、中堅スーパーの「忠実屋」と「いなげや」が互いに新株を発行し合った事件で、東京地裁は以下のように判示して、差止めの仮処分を命じた。

「支配権について争いがある会社において株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ原型映写の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるとき、その新株発行は不公正発行にあたる。」


 しかし、昨年のCSK・ベルシステム24事件は、敵対的買収が明らかになってからの事件であった。コールセンターベンダー大手のベルシステム24の筆頭株主であるソフトウェア会社CSKは、取締役の過半数を送り込むとの株主提案を行うと、ベルシステム24は急遽、ソフトバンクBBと包括的業務提携を行い、日興コーディアルグループの投資会社に1,000億円を超える第三者割当増資を決議した。CSKの差止めの仮処分申請に対し、東京地裁は、「債権者(CSK)の持株比率を低下させて、自らの支配権を維持する意図を有していたことが推認される」と指摘しながらも、「本件新株発行による資金調達を実行する必要があり、かつ当該事業計画自体には一応の合理性がある」として、支配権維持が主要目的とは認められないとして申請を却下したのだ。(ちなみに、この時決定を出した裁判長が、ライブドア・ニッポン放送事件も担当している)
 すでに敵対的買収計画が明らかになり、忠実屋・いなげや事件と同様に「支配権に争いが発生していた」時点での防衛策発動にも、裁判所が一定の許容範囲を示していたことで、法律専門家の間にライブドア・ニッポン放送事件の帰趨に確信を持てる者がいなかったのである。

 しかし、結果はすでにご存知のように、司法戦争はライブドアの「全勝」に終わった。
 東京地裁は、ニッポン放送による新株予約権の発行を「現在の取締役の地位保全が主な目的とはいえない」としながらも、「現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的とするもので、なお現経営陣の支配権を維持することを主な目的としている」と判断し、支配権維持の不公正な目的による新株予約権であることを認めた。一方、「(企業価値の毀損を防ぐため)相当な手段をとることが許される場合がある。」としつつも、「現経営陣の維持を主たる目的する新株予約権の発行は原則として許されない。企業価値の毀損防止のため新株予約権の発行を正当化するためには、特定の株主の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかでなければならないが、それは認めるに足りる疎明がない。」と判断し、ニッポン放送の新株予約権の発行差止めを命じた。
 ニッポン放送側の異議に対し、異議審(東京地裁)もほぼ同様の認定でニッポン放送側の主張を退けた。ここでは、特に現経営陣の取った行為(新株予約権の発行決議)について、「一種の緊急避難的行為にあたる」場合にのみ許されると判断し、ニュアンス的には東京地裁やその後に続く東京高裁の判断より厳格な認定を示唆している点が注目される。
 さらにニッポン放送は抗告を行ったが、抗告審もほぼ同旨の判断で退けられた。高裁決定で特筆すべきは、「例外的に新株予約件発行が認められる場合(特段の事情)」について具体的に例示を示したことである。

「例えば、株式の敵対的買収者が、①真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)、②会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、③会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、④会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には,濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし、当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。そして,株式の買収者が敵対的存在であるという一事のみをもって、これに対抗する手段として新株予約権を発行することは、上記の必要性や相当性を充足するものと認められない。」


 これについては、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」ブロガーの47th氏による批判があるが、方向性としては望ましい態度だと思う。(実務家の方には、「余計な判断基準」で訴訟活動が煩雑になることに閉口されるのだろうが。(苦笑))
 私は二つの点から、裁判所の姿勢を支持したい。
 第一に、ライブドアのような「嫌われ者」にも公正な法の保護を与えうる判断を示した点だ。東京地裁や東京高裁の決定時、ライブドアに対するセンセーショナルな報道が吹き荒れていたことはすでに指摘したが、裁判所がそうした風潮に流されることなく、毅然とした判断を示したことは、長期的視点において裁判所の法的判断への信頼性向上に資することになるだろう。
 第二に、裁判所の判断が商法・会社法の基本的理論に忠実な判断が示されたことである。いわゆる「機関権限の分配秩序維持」説については、学者の間にも様々な見解があり、最もホットな論争点である。こうした説を採る、採らないいずれにせよ、裁判所が企業のM&Aがより合理的な方向、つまり、株主をはじめとするステークホルダーの支持を得られる方向にインセンティブを与える方向で判断を示したこと(フジテレビグループがしたような不当な買収妨害や不合理な交渉拒否を許さない方向)は、大まかな表現ではあると思うが、評価しうる点であると思う。

 しかし、今回の事件で、裁判所は二つの大きな宿題を残した。それについては、次回お話したい。
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by foresight1974 | 2005-12-24 19:06 | 企業統治の公共精神

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