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ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(8)「敵対的買収に対する防衛策(2)」

 それでは、新会社法になってからどのように変わったのだろうか。比較して論じていきたい。



 第一に、平時の備えとしてのポイズン・ピルの規制緩和が挙げられる。

① 強制転換条項付株式に関する規制緩和
 会社法のもとでは、2以上の種類株式を発行する会社(発行予定を含む。以下同じ)は、定款で定めることにより、株主総会の特別決議によって当該種類株式の全部を強制的に取得することができることを内容とする種類株式を発行することができる(全部取得条項。会社法171条1項、309条2項3号、108条1項7号、同条2項7号ロ)。また、会社による当該種類株式の取得の対価として株式、社債、新株予約権等を交付することができる。(会社法171条1項1号)
これによりポイズン・ビルの設計が容易になった。

② 一部の種類株式のみを譲渡制限株式とすることが明文で認められた(会社法108条1項4号)。前回のブログのB.拒否権型ポイズン・ビルの実効性を高めることができる。

③ 新株予約権の消却と消却対価としての株式交付
 一定の事由の発生が条件となるが、会社が新株予約権を強制的に取得することも認められた(236条1項7号イ)。

 第二に、現行法では裏技的存在であった合併による防衛策が拡充された。

① 簡易組織再編行為の要件緩和
 現行法では、株主総会における承認によらず取締役会決議のみで行うことができる簡易組織再編(簡易吸収合併、簡易吸収分割、簡易新設分割、簡易株式交換および簡易な営業の全部の譲受)の場合に発行される株式、承継される資産または支払われる対価の額が、発行済株式総数、総資産額または純資産額の5%に規制されていたが、20%に引き上げられた。

② 組織再編対価の柔軟化
 会社法のもとでは、合併等の組織再編の際に、消滅会社の株主に対する対価として存続会社の株式に代えて金銭のみを交付する交付金合併等や、子会社と他社との合併に当たって存続会社たる子会社株式ではなく親会社株式を対価として交付するいわゆる三角合併等が認められた(会社法749条1項2号、758条1項4号、768条1項2号、773条1項5号)。

 その他に、新しく追加された防衛策が二つある。

① 基準日後の新株引受人の議決権
 会社の合理的判断で基準日後に新株を取得した者に議決権付与をすることもしないことも可能になった。(124条4項)

② 現行法では、取締役の解任決議は3分の2以上を取得しないと不可能である。新会社法では、普通決議に要件が緩和されているが、定款で3分の2を超える決議要件の設定も認められるようになった。

 現行商法と新会社法で比較すると、敵対的買収に対する防衛策について、新会社法で法律技術面の改正が細かく行われているものの、大まかに言えば、両者どちらでもほぼ同じ内容の防衛策導入が可能である。
 こうした視点でみれば、ニッポン放送が敵対的買収をかけられる前に、きちんとした買収防衛策を実施しなかったことは、はなはだ迂闊と言わざるを得ない。

 しかし、それでもニッポン放送が第三者割当増資による防衛策を発表した当時、ライブドアの仮処分申請が認められるかどうかについて、確たる確信を持って語れた法曹家は誰もいなかったのである。
by foresight1974 | 2005-12-18 07:50 | 企業統治の公共精神

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974