改革者が詐欺師に転じた時

 かつて、キ文康隆(キは漢字の「七」を森状に書いたもの)は「経済報道解読ノート」の中で、21世紀最初の大きな国際経済事件となったエンロン事件についてこう述べている。

「(エンロン会長だった)ケネス・レイが実現しようとしたのは、(ジャンク債の帝王といわれた)ミルケンがウォール街を舞台に、ビスケット屋だろうがコンピュータ屋だろうがお構いなしに「株式会社」としてリシャッフルしようとしたことを、世界のエネルギー産業、いや全産業を舞台に仕掛けようという構想だった。
(中略)
(ミルケンが率いた)ドレクセル・バーナムとマイケル・ミルケンの転機は1987年のブラックマンデーであり、息の根を止めたのはSECのインサイダー調査だった。そしてエンロンとケネス・レイにとっては、ネットバブルの崩壊によるアメリカ景気の後退が転機となり、最後はやはり、SECによって息の根を止められた。
われわれは18世紀初めのフランスに、マイケル・ミルケンやケネス・レイを上回る教訓を持っている。(南海泡沫会社で国際金融詐欺を演出した)ジョン・ローの物語である。
(中略)
金融の革新者が創業者利潤を取りつつ、いつのまにか詐欺師に変じる。この両義性こそ資本主義の古くて新しい本質である。」
(キ文康隆「経済報道解読ノート4・革新者が詐欺師に転じる時」 新潮社「Foresight」2001年第12号より抜粋)


 今回の選挙結果についても、この警句は援用できるにように思われるがいかがだろうか。



 この記事がピンとひらめいたとき、記事が掲載された同月の「Foresight」を読み直してみた。
 「医師会の抵抗で“小泉医療保険改革”はご破算」「深層レポート日本の政治・「倒閣だ」と叫んだ道路族のボス」・・・小泉改革が行き詰まりを見せ始めたことを示唆する記事とともに、「郵便改革・戦略なき官業ビジネスの行方」という特集が組まれている。
 この号のForesightは傑作である。ブッシュ政権の今後についてまで4年後をほぼ正確に見通しており、まさに(先見性)の名にふさわしい内容となった。

 さて、冒頭の引用について少し触れてみたい。キ文は、経済の革新者たちがその哲学や理想とはうらはらに、知らず知らず、あるいは意図的に、もしくは独善的に詐欺師となり多くの投資家を不幸に突き落とすことを示唆したものだ。

 引用したように、小泉政権発足1年目から、道路公団民営化や医療改革などで小泉改革なるものが行き詰まりを見せ始めていた。これらの改革が骨抜きの妥協に終わっていき、そして郵政改革も理想とはほど遠い内容に堕していく過程をつぶさに見ながら、なぜ国民はもう一度、小泉に政権を託したのか。

 前掲のキ文のコラムの中で、南海泡沫会社事件を評した経済学者のシューペンターの言葉が引用されている。

「それ以前の時期の革新によって経済構造が変わり、既存の秩序が混乱したことに起因している。」


 日本の場合、小泉自称「郵政解散」にまつわる政治的悲喜劇がそれにあたるだろう。今までのような地方のボスと中央との妥協と調整の産物で選ばれるのではなく、総裁のリーダーシップで立候補者が選ばれたことが「革新」になるのだろうか。
 笑わせてもらっては困る。小泉の残り任期はわずか1年なのだ。彼は「大政治家」として歴史に名を残せるかもしれないが、郵政改革自体は、とんでもない詐欺かもしれない。ひょっとしたら、それは革新ですらないのかもしれないのである。

 Standpoint氏は、「たゆたえど沈まず・参議院不要論」の中で、「民衆は間違わない。絶対に。なぜならば何が正しいかを決めるのは民衆だけだからである。」と言い切ったが、その稚拙で軽率なレトリックに怒りを覚えた。
 民意が間違えないなら、詐欺師がいるわけないだろう?

 さて、ジョン・ローの死後、文芸雑誌だった「メルキュール」はこんな墓碑銘を送っている。
「代数の法則を使ってフランスを破滅させた、たぐい稀なる機略家で、有名なスコットランド人ここに眠る」
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by foresight1974 | 2005-09-18 08:30 | サイレント政治・社会評論

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