foresightの憲法哲学(12)「在外邦人選挙権判決・3つの画期的な点」

 海外に住む日本人に国政選挙の選挙区での投票が認められていないことをめぐる訴訟で、最高裁大法廷は14日、海外在住者について「選挙権を制限する公職選挙法の規定は憲法に違反する」との判断を示し、国の立法不作為を指摘して、原告に慰謝料の支払いを命じた。(朝日新聞2005年9月15日朝刊)



 画期的な判決である。

 まず第一に、最高裁判所が違憲立法審査権の行使について積極的な姿勢を見せたことである。
 今回の判決で最も注目されるべきは、国と国民との間の法律関係について、確認の訴えを提起することが明確に認められたことである。昨年改正された行政訴訟法36条に定められたもので、「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。」とされている。最高裁判所は、今回の判決において「在外国民である上告人らは、次回の衆議院選挙小選挙区および参議院選挙選挙区において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にある」と判断し、訴えの地位を比較的緩やかに認める判断を示した。
 従来、こうした訴訟はいわゆる「取消の訴え」を中心に対応するべきだと考えられてきた。とすると、訴訟の範囲は物理的に「取消できるもの(例えば、渡したものを戻すとか、いったん与えた資格を抹消するなど)」に限られ、国の行為で権利侵害を受けた者の救済が限定的になることが問題になっていた。
 今回の判決からすれば、内閣総理大臣が靖国神社を参拝するような場合において、従来は認められなかった違憲確認訴訟を提起する余地が出てくるかもしれない。つまり、国の行為の違法性をチェックする権限を裁判所に大幅に認める余地が出てきたということである。

 第二に、いわゆる立法不作為の違憲確認訴訟の問題について、要件を実質的に緩和したことである。かつて最高裁は、重度障害者の在宅投票制度の廃止後、立法による救済措置がなされなかった事件について「立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けない」(昭和60年11月21日判決)と判断し、「違憲審査を否認するにひとしいほど厳しい制約を課した」(故芦部信喜東大教授)と批判されていた。今回の判決では判例の変更に言及しなかったものの「国民の憲法上の権利を違法に侵害することが明白な場合」と言い換えることによって、実質的要件を緩和した。ここらへん法律関係者でなければ分からないサジ加減の部類の話であるが、要は、過去に憲法判例で多様された「明白性の原則」を援用することで、立法不作為の違憲確認訴訟の要件をより分かりやすくすることを示唆したということ、学界の通説的見解により近づける判断を示したということである。

 第三に、違憲立法審査権の行使について、これまであまり表に出ることがなかった「行使基準の価値判断」をうかがわせる個別意見がかなり出たことである。
 この中で最も注目されるべきは、泉徳治裁判官の反対意見である。泉裁判官は今回の判決で国家賠償請求訴訟の認容に反対したが、その中で「金銭賠償をもって臨むとすれば、賠償対象の広汎さゆえに納税者の負担が過大となるおそれが生じ、そのことが裁判所の自由な判断に影響を与えるおそれもないとはいえない。」と述べた。通常は、最高裁長官などの会見でも「必要なときは毅然と行使する」と語られるに過ぎない、違憲立法審査権の行使について、裁判官の「心理的価値基準」がここまで踏み込んで示唆されることは非常に珍しい。泉裁判官は続けて、「裁判所としては、このような財政問題に関する懸念から解放されて、選挙権行使の不平等に対し果敢に取り組む方が賢明であると考える」と述べたが、これは、従来の「一票の価値」訴訟判決で最高裁がたびたび行使してきた「事情判決の法理」を念頭において意見とうかがえる。
 この他に、福田博裁判官は「国会は選挙権行使が平等で自由なことについて、国民の選挙権を奪ったり制限したりする裁量をほとんどもたない」と指摘した。福田裁判官はかねてから選挙権平等に関する裁判で、違憲立法審査権の行使を積極的に主張した人物であり、消極的だった裁判官を手厳しく批判してきたことで知られる。今回の判決でもかなり長い補足意見を書いているので、多数意見の判断を支える「価値判断」を推知する資料として、貴重なものとなっている。

 今日、このニュースに隠れてあまり大きく取り上げられていないが、国民健康保険料の徴収をめぐり、旭川市が保険料率を条例で明示していないのは憲法84条に違反すると主張されている訴訟が、最高裁判所大法廷に回付されることが明らかになった。憲法上の重要論点について、最高裁判所が積極的に判断し、議論を公に開示されることを期待したい。
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by foresight1974 | 2005-09-15 23:00 | 憲法哲学

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