「正し過ぎるドイツ」がEUに残した深刻な亀裂

終わってみればドイツ完勝。
ギリシャの債務問題を巡る交渉で勝ち取ったモノはゼロ。というよりゼロよりヒドイ。
とはいうものの、長い目でみればギリシャに好ましい変化をもたらすだろうから、正しいのはドイツであることは明らか。
それでもドイツは恨まれる。




というより、一連の交渉の事実経過をみていると、ドイツがEU分裂すら恐れていなかったのでは?と思えるほど断固としていた。
しかもそれは徹底されており、ギリシャの国家資産を分離・管理するファンドにドイツ人を送り込もうと画策すらしていた。(結局、分離・管理するファンドはギリシャ人が運営することで決着した。)
あまりにも明け透けなドイツの態度に、イタリア首相・レンツィは「ドイツにもうたくさんだ」というこちらも直截な不満の表明をみせている。ちなみにイタリアはギリシャの財務相だったバルファキスから「とっくに破綻している国」と罵倒されたことがきっかけで、一時はドイツ側に傾きかけていたこともある。
ともかく、チプラスの無責任なポピュリズムからはじまった一連の騒動からは、ヨーロッパ人らしくない品のない言葉の応酬だけを残して、ドイツ案をほぼ100%ギリシャが丸飲みすることで決着したが、EUはこれで増すのは「求心力」ではなく「遠心力」だろうと予想する。
その理由は、各国の政府が、ヨーロッパの統合に好意的な世論というより否定的な世論のプレッシャーを受けて、それに配慮した行動を終始取らざるを得なかった、という事情に由来する。

なぜ、各国の世論が統合に否定的なのだろうか。
むろん、各国の社会・文化的な事情(独立心の強さ等)も背景にあるのだが、もう1つ大きい点は、統合の経済的メリットを感じていない世論が強いからだ。
これも2つの面があって、イタリアやスペインの世論は、自分たちの困窮は「ドイツ流の緊縮策を押し付けられている」という不満、一方のドイツでは、「自分たちの税金が湯水のように無駄使いの多い国(あけすけにいえばギリシャやイタリア等)に使われること」の不満が高いからだ。
これらは本来、「裏返しにみられるべき」問題である。つまり、イタリアやスペインは本来、「自分たちの通貨の信用は、いささか堅苦しくともドイツの財政的規律によることが大きい」ことに感謝すべきだろうし、一方のドイツも「経済的に潤っていられるのは、スペインやギリシャの不況も含めた通貨安のおかげである」ことに後ろめたさを感じるべきなのだろう。
が、感謝や後ろめたさより誤解と不満で政治が動かされている。

この問題の究極的な解決策はEUの財政政策を統合し、公正で効率的、規律のある所得の再分配を実現することで各国国民に統合の経済的メリットを行き渡らせるべきだろうが、当面の現実的可能性はない。
ならば、せめてお互いの世論の不満や誤解を解く外交的努力がなされるべきところを、ギリシャが吹っ飛ばした。

19世紀、普仏戦争で勝利したドイツはビスマルクの外交的な均衡政策を通じて新たな衝突を避けながら国力を強化していったが、アルザス・ロレーヌ地方を奪われたフランスの恨みは消えない。密かに戦争計画を立案しつつ、ビスマルクが引退すると、イギリス・ロシアと同盟を結んでドイツを封じ込めにかかる。一方のドイツは半ば消去法的に結ばれたオーストリアが起こした対セルビア戦争をきっかけに、第一次世界大戦に巻き込まれていく。
むろん、現在においてこうした戦争の再現はほぼゼロである。が、一方で、EU発足の経緯が、冷戦直後、東西統一によって巨大化したドイツの経済的な封じ込めという側面があることがどうにも気になる。
2015年現在、封じ込めは成功しているどころか、域内GDPが50%を超えるドイツの政治力に加盟各国が引きずられている(フィンランドにいたっては域内同盟のような状態だ)というのが実情だ。各国の世論はそれを見透かしているのである。

このままでは、先述した国民投票というモンスターによって、EU統合はズタズタにされていくだろう。
ヨーロッパでの紛争防止と平和的な繁栄の仕組み作りは、1990年にフランソワ・ミッテランとヘルムート・コールが合意した時より、はるかな難局に立っている。


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by foresight1974 | 2015-07-19 10:28 | サイレント政治・社会評論

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