人気ブログランキング | 話題のタグを見る

青色LED訴訟:9年後の再検証(2)/中村修二のノーベル物理学賞受賞への「疑問」・上

あの記事を書いたもう一つの理由は,これまで知られていなかった貢献者たち(断っておくが,私は中村氏の貢献を否定しているわけでない)に光を当てなければならないと感じたからだ。学会論文や公証人役場に提出された研究記録などの客観的な資料を見る限り,貢献者は日亜化学工業社内だけでなく,社外にもいる。彼らもまた「日経ものづくり」の読者と同じく技術者や研究者であり,知恵を絞り,手を動かし,悩み,戦い抜いて成果を挙げ,青色LEDの発明や製品化に貢献してきたのだ。彼らの成果や貢献は正当にたたえられるべきである。このままでは,青色LEDの開発の歴史から名前が消え,彼らの貢献が消えてしまう危険がある(実際,彼らの名前はおよそ10年間,メディアから消えていた)。それを傍観することは,記者として卑怯なことだと思ったし,私には絶対にできないことだった。
(近岡裕「青色LED訴訟の波紋(4)職務発明訴訟が技術者の「夢」か---検証能力を喪失したメディア(下)」日経ものづくりブログ2005年3月14日)





 上記の記事は、やはり9年前に青色LED裁判に関するメディアの検証能力の低さに厳しい批判と自己反省を迫った記事であるが、残念なことに、この記事の筆者が警告したマスコミの検証能力の低劣ぶりは、9年経過しても変わらない。STAP細胞にまつわる一連の報道を思い返していただければ、論じる必要もなかろうと思う。

 中村修二のノーベル物理学賞を無批判に礼賛するメディアの記事の傾向は決まっている。

 ①中村は会社のイジメにも負けず、一人で孤独に青色LEDの量産技術を発明した。
 ②日亜化学が「たったの2万円」を引き換えに、中村の発明を紙切れ一枚で取り上げた。
 ③中村が起こした裁判で職務発明に関して技術者への報酬が正当に支払われるようになった。

 いずれも間違いである。
 中村は、確かに会社の中では孤高ともいうべき存在ではあったが、一方で日亜化学から手厚い支援を受けている。青色LEDの開発前に1年間アメリカに留学し、青色LEDの量産化技術の開発にあたっては、5億円もの研究予算を会社から獲得している。特許の対価は2万円だが、その後の昇給やボーナスで6,000万円を手にし、退職時の年収は2千万円であった。一地方企業の技術者の年収がである。
 また、驚くべきことに、日亜化学は大きな利益を上げる青色LEDの量産化技術は、中村が開発したものでさえない。青色LED裁判で争点となったいわゆる404特許に関する技術は、日亜化学では量産化技術として採用されず、代わりに別の技術者たちが開発した技術を採用したのである。つまり、厳密にいえば、中村の発明は、日亜化学の業績に決定的な貢献を果たしていないのである。
 まだある。この別の技術者が開発した量産化技術に、中村はほとんど指示をしていない、と当時、「日経ものづくり」の記者に対して証言しており、これが「日経ものづくり」2004年6月に掲載されているのである(厳密にいえば、中村は確認実験にかかわったと書かれている。)。そして、この量産化技術に関する論文を彼らに知らせることなく、連名で論文を発表する。ファーストオーサー(筆頭者)は中村であった。
 次に、②については、特許対価に関する裁判所の審査能力ともかかわる議論なので、別記事で検証したい。
 最後の③については、完全な事実誤認である。私が知る限り、特許の対価に関する議論が活発化したのは、2002年のオリンパスに関する職務発明対価の最高裁判決が出てからである。青色LED裁判が決着する3年も前から交わされている議論である。
 要は、不勉強を通り越して、調べる気がハナからないとしかいいようのないマスコミが、面白可笑しく中村の言い分だけ書き立てている、というのが真相である。

 とはいえ、私もこの当時、このような検証記事の存在を全く知らなかった。
 しいていえば、2006年に日亜化学が、404特許の権利放棄をした、という記事を読んだ時に疑問を持つべきであったのだ。技術は1つの基本特許だけで守られるのではない。周辺技術や応用も含めた一群の「特許グループ」を構成して核となる技術を防衛するのがスタンダードなやり方である。
 何億もの和解金を支払って帰属を防衛した特許を翌年に放棄するなんてありえるだろうか?
 だが、当時問題関心が別のところにあった私には、この事件にさしたる関心を払うことなく、9年間検証を怠ってしまった。まことに痛恨である。

※参考記事
by foresight1974 | 2014-10-18 11:33 | ビジネス法務

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974