foresightの憲法哲学(29)「絶対的平和主義というリアリズム(3)」

 絶対的平和主義が成立する前提を考えると、一般にはいわゆるユートピア的な状況が想定されがちだ。軍事力の強い国が弱い国を踏みにじってきた歴史が過去に数多く存在することを考えると、そうした想定をすることは自然ではある。
 が、ここで考えたいのは絶対的平和主義が成立「しうる」前提である、ということである。絶対的平和主義も抑止力による平和主義も、最終的には民意に委ねられた政治家の意思によって決定される。その意思決定が可能な範囲がどの程度存在するかを明らかにするのが本稿の任務である。
 絶対的平和主義は、軍事力による防衛という手段を放棄する政策である以上、その政策決定が可能であるには、常に周辺国との間で1つの共通認識が必要である。それは、軍事的攻撃の誘惑より平和を維持する魅力が常に勝っていなければならない、ということである。それはいったいどのような前提があれば可能だろうか?



 それは、
 (1)周辺国との協調による持続可能な国家発展
 (2)自らが攻撃を受けない限り、決して攻撃しないという共通合意
 (3)上記2点の政策を維持し続けることが、自国にとって有利であるというインセンティブが原理的に働くことである。
 
 (1)は、経済政策の観点からの前提である。
 貿易によって自国の富が拡大し、かつ、その富が特定国に偏在することなく、自国の統治を満足するレベルで拡大し続けることである。一般には自国の適切な経済政策によって可能となるが、例えば昨今の金融危機のような状況にあって、周辺国と強調した金融政策を実施した方が、経済の崩壊を防止するセーフティネットとしては適切であることは、ほぼ全ての国家指導者の共通認識であろうと思われる。

 (2)は、安全保障政策の観点からの前提である。
 興味深い実例を1つ紹介しておこう。第一次世界大戦のイギリス軍の報告書に存在することだが、塹壕戦が延々と続いた西部戦線において、ドイツ軍兵士が無警戒にも塹壕を出てイギリス軍陣地からの射程内を散歩していたにも関わらず、イギリス軍から全く攻撃をかけなかった、ということがしばしば起きたのである。徴兵による総力戦で戦われた塹壕戦は、その当時の一般兵士にとってはいわば「際限のない地獄」である。そうした状況にあって、自ら死のリスクを冒すことなく、かつ、相手に服従することなく安全を確保するには、上記(2)に述べたような考えで戦場に臨むことが、一般兵士にとっては最も合理的な選択肢である、ということなのである。これは、経済学の教科書にも取り上げられていることだ。
 さて、軍事的なこう着状態が長く続き、平和による富の拡大が続くと、国内には、この状態を維持した方が、軍事力による平和より有利であるという考えを持つ者、その方が自分にとって有利な国民・利害関係者が増え続けることになる。その結果として、「軍事力そのものを放棄しても問題はないのではないか?」という考えも当然に出てくることになる。これは、第二次世界大戦後のヨーロッパにおいて、EECからEC、そして現在のEUに至る統合過程においてみられた現象である。

 (3)の「原理的」というのは、上記2点が、国際的な合意として確立され、安定して運用されているということである。当然のことながら、上記2点の政策が一人の政治家や一国の国家政策のみで遂行されたとしても絶対的平和主義が現実化することはない。各国においていかなる政策担当者からみても、確立された国際的な合意事項を遵守した方が自国に有利であるということが認識されなければならず、こうした事項が安定的な官僚機構の下で継続的に引き継がれていくことが重要なのである。
 とすると、こうした継続が可能となる合意事項というのは自ずと各国が「公平だ」と考える2つの基準に収斂していくことになる。それは、
 A.他国の自由を侵さない限り、自国の自由に政策を決定できる。
 B.他国との格差を生じさせる場合は、周辺国を含めた共通の利益を生むためでなければならない。
 ということだ。これらは、WTOなど国際的に共通する経済政策に共通して見られる現象である。

 以上、3つの前提が成立して、絶対的平和主義ははじめて可能となると私が考える。
 ここで重要だと思うことを1つ述べておきたい。それは、こうした前提は、周辺国がいかなる政治体制(つまり、世界で最も最悪の独裁体制である北朝鮮であっても)であっても、「常に成立しうる前提」であるということである。なぜなら、以上に挙げた3つの前提は、いかなる統治体制のいかなる政治指導者であっても、安定した官僚機構さえあれば合理的に選択しうるからである。
 無論、全ての政治家に常に合理的な期待するほど甘い話にはならない。だが、何らかの形で平和が長期的に継続されてくると、こうした前提に収斂していくのは可能であろう。
 ということは、一般に考えられているよりも、絶対的平和主義が成立しうる政治状況の範囲が意外と広いということが分かるだろう。
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by foresight1974 | 2010-03-28 09:57 | 憲法哲学

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