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世論調査が教える「憲法9条の危機」

 「神学論争はやめよう」という議論は、政府解釈を骨抜きにして解釈改憲をさらに進めることで、軍事法制の整備に関する支配層の「思惑」を実現する手法だといえる。(中略)妙なネーミングだが、「法解釈をする気のない解釈改憲論」と呼べるだろう。
 他方、解釈改憲最悪論は、神学論争をこれ以上続けるべきではないので、明文改憲をするべきと論ずる議論である。この意味で、神学論争批判と解釈改憲最悪論は「神学論争はやめよう」という主張を共有していながらも、その処方箋は一見、正反対である。前者は解釈改憲を提唱し、後者は明文改憲を提唱するのだから。
 しかし、すでに指摘したとおり、軍事大国化を熱望する人びとは、解釈改憲のさらなる濫用と明文改憲の実現という二兎を追っている。よって、現代改憲状況の下では、神学論争批判と解釈改憲最悪論は共犯関係にある。
 (愛敬浩二「改憲問題」ちくま新書)




例年、この時期になると、憲法改正に関する世論調査が発表されている。
近年の傾向としては、改憲が必要、又は賛成という意見が年々減少傾向にある、ということだが、今年はそれがより鮮明となった。
日本経済新聞が報じた憲法に関する世論調査では、「憲法改正が必要」という意見が50%を切った(47%)となったのである。これまで、「憲法9条改正に賛成」という意見は少数でも「憲法改正は必要」という意見は多数を占めていたから、大きな変化といえる。
だが、これで9条護憲派にとって喜ばしいものとは決していえない。
なぜなら、この数年の間、改憲派にとっての政治的目標は、ほぼ達成しつくしたといえるからである。

この数年、自衛隊は海外に当たり前のように出動している。
90年代から段階的に進められたPKOだけではなく、2002年の同時多発テロ以降、インド洋への給油活動、イラクへの復興支援活動、そして海上警備行動を名目としたソマリア沖への海上自衛隊の派遣。
軍事大国化への自尊心を満足させつつ、泥沼の戦争と多数の犠牲者は出来るだけ避ける、という政治的「思惑」はこの仕組みの中でほぼ達成できるのである。
もちろん、憲法改正への賛成の減少は、賛成派への「幻滅」が広がったことも影響しているとは思われる。小泉純一郎、安倍晋三はそうした「幻滅」に大いに貢献してくれたので、この場を借りて礼の一つも言ってやりたいくらいである。
だが、他方麻生太郎は、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更に執念を燃やしている。これも達成できれば、改憲派にとって憲法9条の骨抜きは完全に達成したことになるだろう。ことここまで至れば、何も明文改憲して事を荒立ていることはない、と考える改憲派が出てきても決して不思議ではない。
前記の日経の世論調査は、この2つの性格を併せ持ったものといえよう。

ネットの言論状況を瞥見する限り、まだこの国には自分たちの価値観を「問いなおす」状況には至っていない。「自分たちの限界」を見極め、冷静に平和を模索する時期に来てはいない。
アメリカの大統領が核兵器の使用についての「道義的責任」に触れるそばから、北朝鮮のロケットに反応して「日本も核武装を“議論”しよう」という政治家がいる国なのである。
そのくらい、社会も政治家も時代錯誤なことを考えているのである。
その自覚を促せるような発言を、今後も続けて行きたいと考える。
by foresight1974 | 2009-05-03 10:41 | 9条問題

真理を決定するものは、真理それ自体であり、それは歴史を通して、すなわち人類の長い経験を通して証明せられる。(藤林益三)


by foresight1974